自分たちの型を作る 〜守から破・離へ〜
型を自分たちの現場に合わせてアレンジし、自分たちのふりかえりを育て続けられる
守り尽くしたら、破っていい
ここまで10週、8つの型を「書いてあるとおりに」実践してきました。武道や茶道でいう守破離の「守」です。型どおりにやるのは、創造性がないからではありません。型には、先人が失敗を重ねて磨いた進め方の知恵が圧縮されています。まず型のまま実践することで、その知恵を自分の身体に写し取る。それが守の意味でした。
そして、守り尽くしたら、破っていいのです。「破」とは、学んだ型を自分なりに解釈し、既存の型を破って、自分たちの現場に合わせてアレンジしていくこと。ここが今週のテーマです。8つの型は汎用の既製服です。よくできていますが、あなたのチームの体型に完璧に合うことはありません。人数、職種、リズム、性格。チームの数だけ最適な型があり、それを仕立てられるのは、11週間そのチームでふりかえりを回してきたあなたたちだけです。
守破離のもとになったとされるのは、茶人・千利休の道歌です。「規矩作法 守り尽くして破るとも 離るるとても本を忘るな」。決まりごとを守り尽くしたうえでなら破ってよい、離れてもよい、ただし本質だけは忘れるな。500年前の稽古の心得が、そのまま現代のチームのふりかえりに当てはまるのは、どちらも「実践を通じて身につける技」だからでしょう。
順番だけは守ってください。守を飛ばして破から入ると、アレンジは「なんとなく好みで変えた」になり、うまくいかなかったときに戻る場所がありません。型どおりに一度やったからこそ、「型のこの部分が、うちには合わなかった」と差分で語れるのです。
破の原則。一度にひとつだけ変える
破のやり方はシンプルです。まず一度型どおりに実践し、しっくりこなかった部分だけを次回ひとつ変えて、また実践する。この繰り返しです。
大事なのは、一度に全部を変えないこと。3箇所同時に変えて良くなっても、どれが効いたのか分かりません。悪くなっても、どれが原因か分かりません。1箇所ずつ変えれば、変化の理由が必ず特定できます。お気づきでしょうか。これは、みなさんが11週間やってきたことそのものです。ふりかえりでアクションを絞り、試し、検査する。ふりかえりのやり方自体を、ふりかえりの対象にする。破とは、カイゼンの矢印を自分たちの型に向けることなのです。
そして、変える場所を教えてくれる声は、もう手元に揃っています。毎回の+/Δで出たΔ、温度計の「提案」、役立った・邪魔した・仮定したの「邪魔した」。10週分のこの記録が、あなたのチーム専用の改修指示書です。
アレンジの3つの道具
1. 手法を入れ替える
。型の中の手法は、同じステップを担う別の手法と交換できます。
Timelineがしっくりこなければタイムラインのハピネスレーダーに。KPTに飽きたらYWTやFun/Done/Learnに。手法カタログを「7つのステップ」で絞り込めば、交換候補が一覧できます。ステップという互換性の規格があるから、部品交換が安全にできるのです。
2. 問いを変える
。手法はそのままで、問いだけ変えるのも立派なアレンジです。「わかったことは?」で出てこなければ「気になったことは?」。「よかったことは?」で手が止まるチームには「ありがとうと言いたいことは?」。手法は問いの束でできているので、問いを1つ差し替えるだけで、同じ手法が違う顔を見せます。問いカタログの13カテゴリ・138問は、そのための道具箱です。
3. 時間配分を変える
。慣れてきたら、時間配分は厳密に決めなくて大丈夫です。思い出しが盛り上がる週は思い出しに、アクションが決まらない週は収束に、その場で時間を寄せる。議論の状況に応じて柔軟に配分を動かせるほうが、チームにとって有意義な時間になります。配分を自在に動かせること自体が、守を修めた証です。
今週のワーク。「自分たちの型 v1」を組む
今週は新しい型を学ぶ代わりに、ワークをやります。ゴールは、あなたのチーム専用の型の最初のバージョンを、アジェンダ作成ツール「ふりかえりを作る」の上に実物として組み上げることです。手順は5つ。
手順1。効いた・効かなかったの棚卸し(15分)。これまでの+/Δや温度計の写真を並べて、使った手法を「うちに効いた」「効かなかった」「まだ分からない」に仕分けします。チームでやるのがおすすめですが、まずあなたひとりの下書きでも構いません。仕分けに迷ったら、判定の物差しを3つ持ってください。第一に意見の量。その手法のとき、付箋と発言は増えたか。第二にアクションの実行率。そこで決めたアクションは、実際に動いたか。第三に場の空気。終わったあと、チームの顔は前を向いていたか。3つのうち2つが良ければ「効いた」、2つが悪ければ「効かなかった」で十分です。厳密さより、チームの実感を信じてください。
手順2。ベースの型を選ぶ。仕分けを眺めて、一番しっくりきた型を1つ選びます。迷ったら型①です。すべての基本を含む型は、改造のベースとしても一番素直です。
手順3。手法を1つだけ差し替える。「効かなかった」に入った手法を1つ選び、同じステップの別の手法と入れ替えます。たとえば「型①は良かったけれど、KPTのProblemがどうしても反省会っぽくなる」というチームなら、KPTをFun/Done/Learnに差し替えてみる。楽しかったこと・やったこと・学んだことの3枠なら、同じ発散のステップを、責めの入り込む隙がない問いで回せます。その構成が、このリンクです。
▶ 型①のKPTをFun/Done/Learnに差し替えた例を開く
もうひとつ例を。「オンライン開催が中心で、タイムラインの付箋書きがどうも重たい」というチームなら、思い出すステップをタイムラインのハピネスレーダーに差し替えます。事実だけを書いて感情は顔文字の位置で表す簡易版なら、書く負荷が下がり、浮いた時間をKPTの議論に回せます。
▶ 型①のタイムラインをハピネスレーダーに差し替えた例を開く
どちらの例も、変えたのは1箇所だけ。残りの部品はそのままです。差し替えの理由(反省会っぽくなる/書く負荷が重い)が言葉になっていることにも注目してください。理由の言えない差し替えは好みの変更、理由の言える差し替えはカイゼンです。
手順4。「ふりかえりを作る」で組んで、チームに配る。上の例のように、ツールの上で手法を選び直せば、差し替え版のアジェンダが数分で組めます。時間配分も自動で引き直されます。できあがったらチーム名に「○○チームの型 v1」と入れて、共有リンクをチームのチャットに貼ってください。v1という名前が大事です。完成版ではなく、これから育てるバージョンだと、名前が宣言してくれます。
手順5。実施して、+/Δで検査する。v1で1回ふりかえりを実施し、最後の+/Δで「差し替えは効いたか」を必ず聞きます。効いたら定着、効かなければ戻すか別の候補へ。そして次に変える1箇所を決めて、v2を組む。この循環が回り始めたら、あなたのチームの型は、もう生き物として育ち始めています。
運用を決める。型のローテーション
自分たちの型ができても、毎週それだけを回すと、いずれまたマンネリが来ます。仕上げに、1ヶ月〜四半期の運用を決めましょう。目安はこうです。
| リズム | やること | 使う型 |
|---|---|---|
| 毎週 | 短期のふりかえり | 自分たちの型 v1(ベースは型①)。ときどき型②〜⑥で味変 |
| 毎月 | アクションの点検と関係の手入れ | アクションのフォローアップ+型②か型⑤ |
| 四半期 | 節目の総ふりかえりと、むきなおり | 型⑦ → 型⑧ |
週次の「味変」は、そのときのチームの症状で選ぶと外しません。よい流れを固めたい週は型②、根深い問題が顔を出した週は型③、大きな出来事があった週は型④、空気がぎこちない週は型⑤、議論が一方向に偏ってきたら型⑥。第2週で見た症状別の一覧が、そのまま処方箋として使えます。症状がなければ、自分たちの型v1で淡々と回す。それがいちばん健康な状態です。
組んだ型は、散らばらせずに台帳にしましょう。「ふりかえりを作る」の共有リンクを、チームのwikiやチャットのピン留めに「うちの型 v1」「月次用」「節目用」と並べておくのです。新しいメンバーが入ったとき、この台帳がそのままチームのふりかえり文化の引き継ぎ資料になります。バージョンを上げたら台帳のリンクを差し替え、古いv1のリンクも消さずに残しておくと、型の成長史という思わぬ財産が育ちます。
この表をそのまま使う必要はありません。大事なのは、「今週はどれをやろう」と毎回ゼロから悩まない仕組みを持つことと、週次・月次・四半期という3つの時間スケールがすべてカレンダーに載っていることです。次の1ヶ月分の予定を、今日、登録してしまいましょう。
ひとりの型も作れる
破の対象は、チームの型だけではありません。あなた専用の、ひとりふりかえりの型も作れます。ベースにおすすめなのはYWTです。やったこと(Y)・わかったこと(W)・次にやること(T)の3枠は、ひとりで5〜10分で回せる最小構成の型と言えます。
アレンジの道具は、チームの型と同じです。まず問いを1つ足してみてください。Wの前に「今日、気持ちが動いた瞬間は?」を挟むと、事実の羅列だったYが感情の記憶とつながり、Wが深くなります。金曜だけ「今週ありがとうと言いたい人は?」を足せば、週締めの型になります。手法を足すのもありです。月末のひとりふりかえりに、ひとり版のアクションのフォローアップ(自分のTの棚卸し)を足せば、あなた個人の経験学習サイクルが閉じます。
ひとりの型の良さは、実験のサイクルが最速で回ることです。誰の合意も要らず、明日の朝には次のバージョンを試せます。チームの型に差し替え候補を持ち込む前に、まず自分のひとりふりかえりで試してみる。ファシリテーターの隠れた特権です。
「離」へ。本を忘るな
守破離の最後、「離」は、型から離れて自在になる段階です。手法の名前を意識しなくても、チームの状態を見て、その場で最適な問いと進め方が出てくる。そこまで行けば、もう型は要りません。
ただし、離には古くから続く注意書きがあります。「型を破り、離るるとても、本を忘るな」。どれだけ型から離れても、忘れてはいけない本質がある、という戒めです。ふりかえりの本質は、7つのステップの流れであり、突き詰めれば「立ち止まり、経験を学びに変えて、次の一歩を決める」ことそのもの。どれだけ独自の型に育っても、この本質から離れていなければ、それはよいふりかえりです。逆に、どれだけ手法に詳しくなっても、責任追及の場になっていたら、それはもうふりかえりではありません。迷ったらいつでも、本質と、そして型①に帰ってきてください。
離の段階に近づいたかどうかを測る、簡単な目安があります。ふりかえりの最中に、アジェンダを見る回数が減っていること。予定していなかった問いが、場の流れから自然に口をついて出ること。そして、うまくいかなかった回のあとに、落ち込むより先に「次はこう変えよう」が浮かぶこと。どれも、型が身体に入って、意識の外で働き始めたサインです。焦る必要はありません。守に数ヶ月、破に半年、離には年単位。それだけの時間をかける価値のある技術です。
ここまでのまとめ
実践に入る前に、ここまでの4ステップで学んだことを、ひとつずつ思い出しておきましょう。
ステップ1:守り尽くしたら、破っていい
8つの型を実践してきました。ここからは「破」です。原則は、一度にひとつだけ変えること。差分で語れる形にしておくと、効いたかどうかが分かります。
ステップ2:今週のワーク。「自分たちの型 v1」を組む
効いた・効かなかったを棚卸しし、ベースの型を選び、手法を1つだけ差し替えます。判断の材料は、意見の量・アクションの実行率・場の空気の3つです。
ステップ3:運用を決める。型のローテーション
1ヶ月から四半期の運用として、型をどう回すかを決めます。3つの時間スケールを意識すると、短期と長期のふりかえりが噛み合います。
ステップ4:ひとりの型も作れる
チームの型と同じやり方で、あなた専用のひとりふりかえりの型も組めます。そして「離」へ。立ち止まり、経験を学びに変えて、次の一歩を決める。本を忘るな。
よくある疑問
Q. アレンジしたら、前より悪くなりました。失敗ですか?
成功です。「この差し替えは、うちには合わない」という知識が1つ手に入りました。1箇所しか変えていないのだから、戻すのも1手です。戻したうえで、+/Δに「なぜ合わなかったと思うか」を残しておくと、次の差し替えの精度が上がります。実験が失敗を含むのは当然のこと。型④で学んだとおり、実験は成功でも失敗でも祝う対象です。
Q. 「型どおりがいい」派と「もっと変えたい」派で、チームが割れます
どちらも正しいので、ペースで折り合いましょう。おすすめは「3回ルール」。変更は1箇所ずつ、そして新しい形は最低3回続けてから評価する。変えたい派には変更の機会が定期的に巡り、守りたい派には評価前に形が安定している時間が保証されます。どの1箇所を変えるかは、Δの付箋の多数決で決めれば、個人の好みの争いになりません。
Q. +/Δの記録を残していませんでした。棚卸しの材料がありません
今日この場で作れます。ホワイトボードに使ったことのある手法を並べて、3つの物差し(意見の量・実行率・空気)で今の記憶のまま仕分けしてください。記憶は薄れていても、「あの手法は盛り上がった」「あれは静かだった」という体感は案外残っているものです。精度は低くて構いません。v1は仮説でよく、検査はこれからの+/Δがやってくれます。そして今日を境に、ふりかえりの最後の5分と写真を、必ず残す習慣を始めましょう。
Q. 差し替え候補の手法は、どうやって探せばいいですか?
入口は3つあります。手法カタログをステップで絞り込むのが正攻法。いま使っている手法のページの関連手法をたどるのが近道。そして「ふりかえりを作る」で目的を変えて組んでみて、提案された知らない手法をつまみ食いするのが偶然との出会い方です。152の手法は、全部を覚えるためのものではなく、必要なときに1つ見つけるための森です。
Q. ファシリテーターがずっと私のままです。これも変えていい?
むしろ、いちばん価値のあるアレンジかもしれません。進行を持ち回りにすると、全員が「進行する側の目」を経験し、参加の質が上がります。最初は+/Δの5分だけ、次は1手法だけ、と部分から渡すのがコツです。あなたの型がツールの共有リンクとして残っていれば、誰が進行しても同じアジェンダで回せます。型を作ることは、ファシリテーションをチームの共有財産にすることでもあるのです。
修了、おめでとうございます
12週間、おつかれさまでした。歩いてきた道を一度だけふりかえりましょう。最初の2週間でふりかえりの意義と7つのステップ、8つの型の地図を手に入れ、第3週の型①ですべての基本を身体に入れました。型②でよいところを見る目を、型③で問題を掘る手つきを、型④で失敗を祝う文化を、型⑤で関係という土台を育て、型⑥で視点を自在に切り替え、型⑦で長い時間を見渡し、型⑧で未来を描きました。そして今日、それらを材料に、自分たちの型を組み上げました。あなたのチームはもう、自分たちでふりかえりを選び、組み立て、検査し、育てていけます。ここから先は、あなたのチームだけの物語です。手法カタログも、TIPSも、問いカタログも、「ふりかえりを作る」も、いつでも道具箱として待っています。
そして最後にひとつ、お願いがあります。自分たちの型ができたら、ぜひ発信してください。ブログでも、カンファレンスでも、Xでも。あなたの現場で生まれた型は、他の誰かの現場を救うかもしれません。ふりかえりの手法は、世界中の現場でそうやって生まれ、共有され、磨かれてきました。このサイトに並ぶ152の手法も、その積み重ねです。次の1つが、あなたの型かもしれません。
ふりかえりを、日本のあたりまえに。
今週の実践課題
- これまで実施した型の+/Δや温度計の結果を並べて、「私たちのチームに効いた手法・効かなかった手法」を仕分けする
- 一番しっくりきた型をベースに、1つだけ手法を入れ替えた「自分たちの型 v1」を「ふりかえりを作る」で組み、共有リンクをチームに残す
- 次の1ヶ月の運用(週次はどの型か、月末に何をやるか)をカレンダーに登録する
ひとりで進める場合:自分専用の「ひとりふりかえりの型」を作ってみましょう。YWTをベースに、問いカタログから好きな問いを1つ足すだけでも、立派なあなたの型です。
手法を変えなくても、問いを変えるだけでふりかえりは変わります。問いカタログの138問は、破のいちばん手軽な道具です。 → 問いカタログ
読み終える前に、少しだけ書いてみましょう
自分の過去のふりかえりと照らし合わせて考えると、読んだ内容が身につきます。書いた内容はこの端末に保存され、あとからまとめて読み返せます。すべての問いに一言でも書けば次へ進めます。
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ここから下は、実践したあとに書きます
上の問いに答えたら、いったんここを離れて、実際にやってみてください。やってみたあとに、このページへ戻ってきて続きを書きましょう。
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