チームビルディング

その改善活動、1年後も残っていますか。火を消さないための3つの打ち手

2026-08-01

この記事は、スクラムフェス新潟2026の講演「ボトムアップの改善の火を灯し続けろ!」でお話しした内容を、読み物として再構成したものです。ふりかえりが自分のチームで回るようになった人が、次にその火を周りへ広げようとしたときに、必ずぶつかる壁の話です。

講演スライドの全文です。左右の矢印でめくれますSpeaker Deckで開く →

1年後、その活動は残っていましたか

こんな経験はないでしょうか。カンファレンスや勉強会で「この話、めちゃくちゃ良かった」と心を動かされて、会社に持ち帰ってやってみる。社内勉強会、アジャイル開発のPoC、グループ横断の交流施策、1on1施策、開発生産性を上げるためのワークショップ。

それが1年後、誰もやっていない。

私は支援現場に入りながら、チームが変わった瞬間も、活動が立ち消えた瞬間も、両方たくさん見てきました。自分で消してしまった活動もあります。そして分かったのは、これが根性や才能の問題ではなく、構造の問題だということです。消え方には共通のパターンがあります。

  • 属人化:推進者が忙しくなったり異動したりした瞬間に終わる
  • バーンアウト:熱量が保てなくなった瞬間に終わる
  • 成果の不可視化:「で、何が変わったの?」に答えられない
  • 組織再編:「方針が変わりました」の一言で消える
  • 論理の断絶:現場の熱量が、関係者に届かない
講演スライド10枚目:消えていく改善活動に共通するパターン。属人化・バーンアウト・成果の不可視化・組織再編・論理の断絶
講演スライド10枚目:消え方の5つのパターンSpeaker Deckで開く →

このパターンに企業の規模は関係ありません。誰にでも起こります。裏を返せば、消えるには理由があるということです。理由があるなら、消えないための打ち手もあります。翻訳する・巻き込む・仕組み化するの3つです。

打ち手① 翻訳する

あるプロダクト開発組織で、スクラムを学んだばかりのスクラムマスターが、熱量を持ってマネージャーに提案しました。「複数のチームでインセプションデッキ、ペアプログラミング、カンバン、ふりかえりをやりたいんです。そうすればみんな前向きになって、チームの雰囲気も良くなります。自発的な改善も進むはずです」。

マネージャーの返答はこうでした。「8人の1チームだけでも、毎週2時間かけたら1か月で64時間だよね。開発が佳境なのに、追加で1人月の時間を割く判断はできないよ」。提案は通りませんでした。

何が起きていたか。現場の論理とマネージャーの論理は、そもそも違うのです。「雰囲気が良くなります」はマネージャーが聞きたい言葉ではありません。加えて、属人化やレビュー遅延がプロダクト遅延の原因側にあるという因果が伝わっておらず、「色んなチームで」という曖昧さが投資規模を大きく見せてしまっていました。

翻訳するとは、現場の言葉を関係者の言葉に置き換えることです。「雰囲気が良くなった」は「相談コストが下がり、手戻りが週◯時間減った」に。「みんな前向き」は「離職率が◯%改善した」に。そして伝え方はこう変わります。「全体で開発のスループットが落ちていて、遅延がさらに広がるリスクがあります。実は1チームで1か月やってみたところ、課題認識が深まって改善の兆しが見えました。もう1チームにも広げたいのですが、いかがでしょうか」。

同じ「プロセス改善」でも、誰に話すかで切り口は変わります。経営層なら企業価値やキャッシュフロー、事業部長やVPなら売上達成率やロードマップ達成、開発マネージャーやPMならリソース効率・スケジュール・品質、プロダクトオーナーならビジネス価値やユーザー満足度、テックリードなら技術的負債やFour Keys、現場メンバーなら働きやすさや成長やムダの削減。相手が求める指標を想像してぶつける。これがスクラムマスターに求められる翻訳力です。

講演スライド22枚目:同じプロセス改善でも誰に話すかで切り口を変える。経営層・事業部長・開発マネージャー・プロダクトオーナー・テックリード・現場メンバーごとの関心事の一覧
講演スライド22枚目:相手ごとに変える、翻訳の切り口Speaker Deckで開く →

ひとつだけ大事なコツがあります。KPIは活動の前に設計すること。後から取ろうとしても、比べるものが残っていません。そして最初のKPIは正しくなくて当たり前です。「まだ何を取ればいいか分かっていないので、とりあえず取ってみて、違ったら直します」で構いません。指標そのものをふりかえって改善していけばいいのです。

打ち手② 巻き込む

次は、若手のスクラムマスターの話です。自分のチームのふりかえりがうまく回るようになり、この体験を周りにも届けたいと思って部長に相談しました。「周囲のチームにも展開したいので、部長から声をかけてもらえませんか?」。

部長は言います。「ふりかえり、KPTのアレだよね。私は経験がなくて。どういう効果が出るの? 結果を見せてくれる?」。過去のアクション一覧を見せると、「これ1時間で7〜8人でやってるんだっけ。アクション、こんだけしか出ないの? まぁ声がけはしておくね」。2か月後、返ってきたのは「リーダーに紹介はしたけど、いい反応は得られなかったよ」でした。

説明はした。成果も見せた。理解もしてもらえた。それでも動かない。理解と行動は違います。目指すべきは「理解してくれればOK」ではなく、「相手が納得して協力できる状態を作る」です。

ここでの失敗は3つあります。結果を見せただけで体感させなかったこと。部長は一度もふりかえりを体験していません。「アクションが少ない」という反応が出ている時点で、1時間の対話そのものに価値があることが伝わっていないのです。次に、「声がけしておいてください」というコストのかかる依頼を丸投げしたこと。忙しい人に判断と実行の負荷を渡しています。そして、部長が動く理由を作れていなかったこと。翻訳が足りていませんでした。

ではどうするか。まず、味方をひとり見つけます。決裁者でなくて構いません。1つ上の視座なら想像できても、2つ3つ上は想像しづらいものです。1段ずつ登っていける人と一緒に、説得材料を作りに行きます。

そして、体感の場を設計します。「部長に来ていただけるとチームの士気も上がります。ぜひ一度ふりかえりの場を体感していただいて、広げ方を一緒に考えてもらえませんか」。場の空気やチームの変化は、ドキュメントからは伝わりません。必要なのは理解ではなく体感です。

講演スライド32枚目:体感の場を設計する。結果を見せただけの問題と、取るべきアプローチの対比
講演スライド32枚目:「見せる」ではなく「体感してもらう」Speaker Deckで開く →

巻き込むなら、巻き込み方まで設計してください。当日いつもの120%を見せられるよう、直前のふりかえりで流れを作っておく。部長には事前ブリーフィングをして、「最後にみんなを勇気づける一言をお願いします」と役割を渡しておく。最後に「いかがでしたか」と振る。ここまでやって初めて、「来てみて分かった、他のチームにも伝えないと」という言葉が返ってきます。

打ち手③ 仕組み化する

3つ目は、複数チームを横断支援するCoEの中堅メンバーの話です。学び続ける文化を根付かせたいと勉強会を立ち上げ、チャットで募集したら20名が集まりました。「持ち回りで発表しましょう。最初の数回は私がやります」。

3時間かけて資料を作った1回目は好評。2回目、3回目も人数は減りません。4回目と5回目は、やる気のある若手が資料を作って話してくれました。手応えがある。任せれば自走できそうだ。そう判断して、中堅メンバーは次の支援先へ移りました。

3か月後。「ネタ切れになってきたし、今回はスキップしよう」「学びの質が下がってきたから、次回は参加しなくていいかな」。活動は、誰にも気づかれることなく静かに消えていました。

問題は3つでした。中堅メンバーひとりがエンジンになっていたこと。テーマ選定も資料作成も進行も、実は全部その人が支えていました。次に、5回続いたことと習慣になったことは違うということ。続いたのではなく、続けさせていたのです。そして、離れる前に「設計」を渡していなかったこと。「もう大丈夫」の判断が、仕組みの移管より先に来てしまいました。

本当に必要だったのは、設計の引き渡しです。ポイントは3つあります。

無理せず続けられる形にする。資料作成は任意にして、その場で調べながら話してもいいくらいにします。最初に素晴らしいものをやりすぎると、それが暗黙のハードルになります。ハードルはゼロにしてください。

次回の設計とふりかえりを、会の中に組み込む。1時間の勉強会なら、最後の5分から10分を「次は誰が何を話すか」と「今日はどうだったか」に使います。別途運営のふりかえりをしましょう、は続きません。業務時間の外で無理をしているからです。1時間の中で完結させることが、そのまま継続の条件になります。

自分事になる動機を埋め込む。「はい、よろしく」と渡すのではなく、「この会を運営すると君の求心力が上がるから、3回だけ自分で設計してみない? そこは寄り添うから」と渡す。設計の仕方ごと渡して、「これは自分がやる価値がある」と本人が思ってから手を離します。

個人の熱量は、仕組みに変換されて初めて文化になります。目指すのは「柱がいないと回らない」ではなく、柱がいなくても全員が気づかないうちに柱になっている状態です。

講演スライド42枚目:本当に必要だったのは設計の引き渡し。無理せず継続可能な形をつくる、次回の設計とふりかえりを組み込む、自分事になる動機付け
講演スライド42枚目:「設計の引き渡し」の3点Speaker Deckで開く →

使う順番がある

3つの打ち手は、順番を知っていると遠回りせずに済みます。私の感覚で刺さりやすかった順は、次のとおりです。

講演スライド45枚目:改善活動のロードマップ。STEP1小さく始めて事例を作る、STEP2成果を魅せる、STEP3上層部を巻き込む、STEP4興味のある層を巻き込む、STEP5仕組み化して広げる
講演スライド45枚目:5つのSTEPと、3つの打ち手の対応Speaker Deckで開く →
  1. 小さく始めて事例を作る。周囲に相談すると、その時点で止められることがあります。だから自分の動ける範囲でやってしまう。週4時間ではなく、週30分から1時間で十分です。うまくいかなければ、そっと閉じる。撤退基準も最初に決めておきます
  2. 成果を周囲へ魅せる。取るKPIをできる限り事前に設計し、事例と照らし合わせて説得の材料を作ります
  3. 上層部を巻き込む。材料が足りなくても味方を探し、一緒に材料を作る。「3か月やらせてください」ではなく「3か月やって、その後しっかりふりかえって再計画します」と言うと、たいていOKがもらえます
  4. 興味のある層を巻き込む。手を挙げてくれた人と2〜3回かけて一緒に設計し、少しずつ手渡していきます。オンボーディングと同じです
  5. 仕組み化して広げる。手上げ制から、ある程度の強制力を持つ仕組みへ。ふりかえりとセットにして、ゴールを更新し続けます

よくある失敗が2つあります。ひとつは仕組み化から始めてしまうこと。事例がない状態で仕組みだけ作っても、誰もついてきません。もうひとつは巻き込みをスキップすること。ひとりの熱量には限界があります。小さく始めて、魅せて、巻き込む。この順番が活動を生き残らせます。

こっそり始めるのは、実はとても大事です。うまくいかなかったら、なかったことにしていい。「4時間かけてやりましたが失敗しました」と報告してしまうと、二度とやらせてもらえなくなります。うまくいったときに、ちゃんと見せる。それでいいのです。

熱量だけでは、組織は動かない

熱量は、正しい打ち手と組み合わさったときに初めて組織を動かします。逆に言えば、打ち手さえ知っていれば、あなたの改善の火は明るく灯り続けます。

そして当然、いきなりはうまくいきません。だからふりかえるのです。小さく始めて、ふりかえって、打ち手そのものを改善する。このループは、チームのふりかえりでやっていることと何ひとつ変わりません。相手の論理を想像する訓練も、上司との1on1でも、間に立てる人にワンホップ挟むだけでも積めます。それ自体がもう、巻き込みです。

あなたが灯した火は、いまも燃えていますか。もし消えかけているなら、次に打つ手はどれでしょうか。