「受け入れ」ではなく「迎え入れる」。オンボーディングとふりかえりの深い関係
2026-08-01
新しいメンバーがチームに入ってくる。新卒でも、中途でも、異動でも。そのとき皆さんのチームでは、誰が何をしていますか。メンターがひとり付いて、その人がつきっきりで面倒を見る。他のメンバーは「私メンターじゃないから」と、どこか他人事。よくある光景ですが、これを変えたいという思いから、フィードフォースの富田英典さん(えーちゃん)と一緒に「オンボーディングハンドブック」を作り、スクラムフェス福岡2025で公開しました。2人で合計80時間、約50個のTIPSを書き出したMiroボードです。
この記事では、そのハンドブックの背骨になっている考え方と、このサイトの読者にいちばん関係の深い「ふりかえり×オンボーディング」の部分を紹介します。ハンドブック本体はMiroボードで誰でも読めて、誰でも書き足せます。
キーメッセージ:「受け入れ」ではなく「迎え入れる」
ハンドブックを作る途中で、私たちは「受け入れ」という言葉を使うのをやめました。「受け入れてやるよ、かかってこい」という響きがあるからです。そうではなく、チームメンバー全員で新しい仲間の方へ向かっていく。「迎え入れる」。ハンドブック全体に込めたのは、この言葉ひとつです。
象徴的な場面が自己紹介です。大きな組織ほど、新メンバーが入ると「来てくれてありがとうございます、では自己紹介をお願いします」と、新メンバーにだけ自己紹介させがちです。聞いている側は名乗らない。新メンバーからすれば「あなた誰?」の集団の前でひとりで話す状態から関係が始まってしまいます。全メンバーがしっかり自己紹介する。当たり前すぎることのようですが、この当たり前から迎え入れは始まります。ちなみにえーちゃんのチームでは毎回全員が自己紹介をやり直していて、AIにお題を考えてもらって「最近おいしかったお店」のような小ネタで味変しているそうです。
もうひとつ、特に中途や異動者に対してやりがちなのが「お手並み拝見」です。「あなたはこれができる人なんですね。では権限を渡すのでやってみてください。皆さん、お手並みを見てみましょう」。やりたくなる気持ちは分かりますが、最初の1〜3ヶ月は、本人もどこまでやっていいのか分からない状態です。お手並み拝見せずに、迎え入れる。これもハンドブックの大事なTIPSのひとつです。
新卒は、真っ白なキャンバス
新卒メンバーには、さらに特別な注意が要ります。学生から社会人になったばかりの彼らは、何でも吸収しようとするエネルギーの塊です。それは、良い方にも悪い方にも働きます。間違ったことを伝えると、間違いだと気づかないまま数年を過ごしてしまう。逆に、成長を加速させるマインドセットや文化をこの時期に体験できれば、それはキャリアを作る財産になります。研修とオンボーディングの設計は、思っているよりずっと影響の長い仕事なのです。
迎え入れ初期:毎日の終わりに、みんなでふりかえる
ここからが、ふりかえりの出番です。ハンドブックでは迎え入れの初期に、毎日の業務の最後に短いふりかえりの場を持つことをすすめています。問いは軽くて構いません。「今日作業していて、分からなかった単語はある?」「この人のこんな動きが助かりました」「チームのイベントに参加してみてどうだった?」。新メンバーが疑問を1日分ためこまずに出せて、チームは新メンバーの目に映った自分たちを知れる。数分の場が、双方向のオンボーディングの装置になります。
同じ時期にやっておきたいのが、互いの期待を伝え合うことです。自分は何が得意か、どうやってチームの成果に貢献するつもりか、大切に思う価値は何か、チームは自分に何を期待していると思うか。この4つの問いを、新メンバーだけでなく全員が双方向に伝え合います。コミュニケーションの作法(いつでも話しかけていいのか、チャットの使い方はどうするか)も、既存のルールを一方的に案内するのではなく、迎え入れた人を含めて全員で試行錯誤し直す。実は、新メンバーの加入は、形骸化したチームルールを見直す絶好のタイミングでもあるのです。
継続期:ふりかえりの時間の中でオンボーディングする
オンボーディングは初週で終わりません。継続的なオンボーディングには継続的な時間が必要で、その置き場所として一番良いのが、すでにあるふりかえりの時間です。毎週のふりかえりに、時々こんなワークを混ぜます。目的や目標を揃えたいときはゴールデンサークルやインセプションデッキ。互いの多様性を知りたいときはMoving Motivatorsや偏愛マップ。関係の質を高めたいときは期待のすり合わせや感謝。チームの文化を作りたいときはDPAやチームルール決め。
新しい人が入ったチームのふりかえりは、チームビルディングそのものです。私は、ふりかえりに初めての人がいたら、その回はもうチームビルディングをやってしまいます。それ自体もふりかえりだからです。あわせて、1on1を業務報告で終わらせないことも大切です。初期は「業務をやってみて気になったところは?」「覚えたいスキルは?」、慣れてきたら「慣れる前と後で見え方はどう変わった?」「これからどんなキャリアを歩みたい?」と、テーマを時期で変えていきます。
迎え入れる側にも、成長の設計を
ハンドブックには、研修やオンボーディングを実施する側のノウハウもまとめています。社内でこの分野の第一人者になるコツは、「教えます」ではなく「学び始めました」から発信すること。小さなワークショップで成功体験を積み、興味を持ってくれた人を巻き込んで輪を広げる。人事とは、いきなり協業を求めるのではなく、まず研修について雑談する関係づくりから。どれも、ふりかえりを組織に広げるときの動き方とそっくりです。迎え入れの上達も、結局はふりかえりの積み重ねなのです。
ハンドブックは、みんなで育てる
オンボーディングの正解は、会社の規模や文化によって違いすぎます。数十名の会社と1万人の会社では、やることも考え方も変わる。だから、すべてに効く完成版のTIPSを配るのではなく、使った人が「うちではこれが良かった」を書き足して育てていく集合知の形にしました。ボードには「みんなのメモ」の欄があり、誰でも編集できます。ふりかえりカタログと同じ思想です。
新しい仲間を迎える季節が来たら、まずボードを眺めて、TIPSを2つ3つ選んで試してみてください。そして、あなたのチームで効いたやり方を、一言でいいので書き残してもらえたら。それが次にどこかで誰かを迎え入れるチームの、明かりになります。