「人のせい」が始まったら。矢印を仕組みへ曲げる技術
犯人探しの空気を予防・転換でき、「なぜ」を「何があった」に言い換えて仕組みまで掘り下げられる
実例記事「はじめてのふりかえり、のぞいてみよう」に、この連載で何度か触れてきた場面があります。資料の作り直しが話題になったとき、佐藤さんが言うのです。「それ、私のせいなんです」。場が一瞬しんとなり、リーダーの田中さんが返します。「人じゃなくて、仕組みの話をしようか」。
そもそも、なぜ私たちはこんなに簡単に「誰のせいか」へ滑るのでしょう。ひとつには、育ちの問題があります。学校の「反省会」、うまくいかなかったら始末書、誰かが頭を下げて終わる会議。多くの人にとって、過去を語る場のロールモデルは反省会でした。反省会の目的は原因の除去ではなく、責任の所在の確定です。だから、ふりかえりを始めたばかりのチームが反省会の文法で話し出すのは、ある意味で自然なことなのです。ファシリテーターの仕事は、その文法を咎めることではなく、新しい文法を体験させることです。
今週は、この一言を分解します。ふりかえりが「誰が悪かったか」に滑り落ちそうになった瞬間、ファシリテーターに何ができるのか。予防、その場の切り返し、そして掘り下げの安全運転。順番にいきます。
なぜ、犯人探しは始まってしまうのか
最初に確認しておきたいのは、犯人探しを始める人は、たいてい悪人ではないということです。むしろ逆で、責任感の強い人ほど「自分のせいです」と抱え込み、当事者意識の強い人ほど「あれは◯◯さんの確認漏れでは」と口にします。問題を放置したくない、という真剣さの表れなのです。
それでも、人に矢印が向いた瞬間、ふりかえりは壊れ始めます。理由は3つ。第一に、解決に繋がらないから。「Aさんが悪い」で終わった問題は、Aさんが謝って幕を閉じ、仕組みは何も変わらず、次は別の人が同じ穴に落ちます。第二に、関係の質が壊れるから。責められた側は防御と弁明を始め、対話は攻防戦に変わります。第三に、これが一番重いのですが、次回から本音が出なくなるから。失敗を出すと吊るされる場だと学習したチームは、失敗を隠すチームになります。レッスン4『「特にないです」の正体。意見が出ないときの介入』の⑤「言っても無駄」の親戚で、こちらは「言うと危ない」の学習です。
もうひとつ、知っておくと楽になる知識があります。人間の脳には、出来事の原因を状況よりも人に求めるクセがあります(自分の失敗は状況のせい、他人の失敗はその人のせい、に見えやすい)。つまり犯人探しは、性格の悪さではなく認知の初期設定です。初期設定なのだから、放っておけば必ずそちらへ流れる。だから、意識的に矢印を曲げる仕掛けが要るのです。
予防線を張る:起こる前が9割
犯人探しへの対処は、起きてから切り返すより、起きないように設計する方がずっと簡単です。予防線は3つあります。
①ルールとして合意しておく
レッスン2『場を設計する。ふりかえりは始まる前に半分決まっている』のDPAの出番です。「今日はどんな雰囲気で?」の問いに対して、ファシリテーターから一枚だけ提案を混ぜてもいい。「人ではなく、仕組みの話をする、を入れませんか」。全員が合意してボードの隅に貼られたこの一枚は、後で場が滑り始めたときの命綱になります。切り返しのセリフが「私の注意」ではなく「みんなの約束」を指差すだけで済むからです。
さらに強力な既製品として、Norm Kerthの最優先条項があります。「どんな道をたどったにせよ、当時の知識・技術・能力・利用可能なリソース・状況の中で、みんなができる限り最高の仕事をしたはずです。それを心から信じます」。ふりかえりの冒頭に全員で読み上げる。少し芝居がかって感じるかもしれませんが、失敗が多かった期間のふりかえりや、緊張が漂う障害後のふりかえりでは、この宣言の有無で場の空気が目に見えて変わります。毎回読む必要はありません。普段は自分たちのDPAで十分で、最優先条項は「今日は荒れそうだ」という日の切り札として胸に入れておく。使いどころを選ぶからこそ、効きます。
②レイアウトで仕込む
レッスン2の「人対問題」の構図です。出来事も問題も付箋にしてボードに出し、全員が横に並んでボードを見る。責める相手が視界にいない場では、責める言葉はそもそも出にくい。物理は嘘をつきません。
③問いの言葉を選んでおく
「誰がやったの?」はもちろん、「なんでこうなったの?」も、聞き方によっては詰問に響きます。最初から「このとき、何があったんでしょう?」「どんな状況だったんでしょう?」という、出来事と状況を主語にした問いを標準にしておきましょう。
3つとも、始まる前に打てる手です。しかも一度仕込めば、毎回効き続けます。それでも犯人探しは起こります。予防は発生率を下げるだけで、ゼロにはできません。だから次は、起きてしまったその場で何をするかを見ていきます。
その場の切り返し:4つの技
予防線を張っても、熱がこもれば矢印は人に向かいます。そのときの切り返しを、実況つきで4つ。
技①:名前を場面に言い換える
「あれは山田さんの確認漏れですよね」と出たら。「山田さんの確認の場面で、何があったんでしょう?」と返します。名前を消さず、名前を場面の入口に変えるのがコツです。「山田さんを責めるな」と制すると、発言者は自分が悪者にされたと感じます。発言は受け止めつつ(レッスン3『聴く技術。ファシリテーターの主な動詞は「話す」ではない』の受容です)、カメラを人から状況のほうへ向け直す。
技②:主語を「私たち」に付け替える
「Aさんがもっと早く共有してくれれば」に対して、「私たちは、早く共有される仕組みを持っていたんでしたっけ?」。個人の行動の話を、チームの仕組みの有無の話に置き直します。主語が「私たち」になった瞬間、全員が当事者になり、傍観席から責める構図が消えます。
技③:時系列に逃がす
感情がこもって膠着したら、「一回、時間順に何が起きたか並べてみませんか」とタイムラインに切り替えます。時系列に事実を並べる作業は、それ自体が冷却装置です。話す行為は感情を乗せやすいのに対し、書いて並べる行為は自然と事実ベースになるからです。そして並べてみると、たいてい「個人のミス」の前後に、無理なスケジュール、曖昧な依頼、伝わっていなかった前提など、仕組みの伏線がずらずら見つかります。「金曜の設定ミス」の3日前に「仕様変更の口頭連絡」があり、その前に「ドキュメント更新の担当が不在」がある。1点だけ見れば人のミスに見えた出来事が、線で見れば仕組みの必然だった、と全員の目に映る瞬間、場の空気は確実に変わります。
技④:本人が抱え込んだときは、荷物を分ける
佐藤さんのように「私のせいです」と自分に矢印を向ける人にも、同じ原理で返します。「そう言ってくれてありがとう。ただ、1人のミスで壊れるとしたら、それは仕組みの側に穴があるということなので、そこをみんなで見たいです」。責任感は労い、荷物はチームに分ける。抱え込みは美徳に見えて、仕組みの穴を個人の頑張りで塞ぎ続ける宣言でもあるのです。
4つの技に共通する原理を、ひとつだけ抜き出しておきます。否定してから曲げない。受け止めてから曲げる。「責めるのはやめましょう」「犯人探しは無しで」という制止は、正しいのに機能しません。発言者の真剣さごと否定してしまうからです。どの技も、発言をいったんレッスン3の受容で受け取り、そのエネルギーの向き先だけを変えています。責める熱は、問題を解く熱と同じ熱源から来ています。消すのではなく、配管をつなぎ替える。それがファシリテーターの仕事です。
効いたかどうかは、実測で決める
予防線と切り返しをいくつも並べましたが、どれが効くかはチームによって違います。だから、試したら効き目を測ってください。といっても大げさな話ではありません。最優先条項を読み上げた回の終わりに、+/Δのついでに「今日の冒頭のあれ、どうでした?」と一言聞く。手応えを◎○△くらいの粗さでメモしておく。それだけです。◎なら荒れそうな日の定番にする。△なら形を変えるか、やめる。プラクティスは処方箋であって、効いたかどうかは患者であるチームだけが知っています。「本に書いてあったから続ける」ではなく「うちには効いたから続ける」。この検証の姿勢そのものが、ふりかえりの心臓部である検査と適応の、ファシリテーション版です。
掘り下げの安全運転:「なぜ」を「何があった」に
原因を深掘りする定番は5つのなぜですが、この手法は運転を誤ると、犯人探しの高速道路になります。「なぜ漏れた?」「Aさんが確認しなかったから」「なぜ確認しなかった?」。ほら、もう尋問です。安全運転の要点は2つです。
第一に、言葉を替える。「なぜ?」は日本語では責める響きを持ちやすい言葉です。「なぜ確認しなかったんですか」と声に出して読んでみてください。どう発音しても、少し詰めて聞こえませんか。「何があった?」「そのとき何が起きてた?」に言い換えるだけで、同じ掘り下げが取り調べから事実の観察に変わります。答える側の脳の動きも変わります。「なぜ」を向けられた人は理由を、つまり弁明を探し始めますが、「何があった」を向けられた人は記憶を、つまり事実を探し始めるのです。
第二に、人で止めない。掘り下げの途中で人が出てくるのは自然なことです。大事なのは、そこで止めずに、人を通過して仕組みまで掘り進めることです。
「作業が漏れていた」→「担当が忙しく、手が回っていなかった」。ここで止めると、アクションは「Aさんが頑張る」しかありません。もう一段。「カバーしたくても、タスクが分割されておらず入れなかった」。もう一段。「タスク分割の粒度をチームで揃える場がない」。ここまで来れば、「リファインメントの時間を週1で設ける」という、誰の人格も関係ないアクションが見えてきます。忙しかった、で止めない。あと2段掘ると、仕組みが顔を出します。
ついでに、明るい使い道もひとつ。この掘り下げは、うまくいったことにも同じように使えます。「今回のリリース、なんでこんなに静かに終わったんでしょう?何があった?」。成功の裏の仕組みを掘り当てて、それを意図的に繰り返せるようにする。失敗の掘り下げばかり続くと場が重くなるので、たまに成功を掘る回を挟むと、掘り下げという行為自体への安心感も育ちます。
なお、この掘り下げの間、事象の張本人は悪口を言われているような気持ちになるかもしれません。事前にこう伝えておきましょう。「これは責任追及ではなく、全員で助け合って問題を解くための原因探しです。自分の場面が出てきても、防御や弁明は要りません。事実として一緒に眺めてください」。責められていると感じて防御や弁明をしても、何も生まれません。ふりかえりですべきなのは、失敗の追及ではなく、次に繋げる一手を全員で考えることです。
ちなみに、ソフトウェアの世界では、障害後の検証を非難なしで行う文化を「ブレームレス(blameless)」と呼び、大規模なサービスを運営する企業ほど、この文化を制度として守っています。理由は道徳ではなく実利です。人を罰する組織では失敗の情報が上がらなくなり、情報が上がらない組織は同じ障害を繰り返す。今週やっていることは、その文化のチーム版だと思ってください。優しさのためだけでなく、正確な情報がほしいから、責めないのです。
ファシリテーター自身が「犯人」のとき
忘れられがちなケースをひとつ。掘り下げていったら、原因の場面に自分がいた、ということは普通に起こります。ここはむしろチャンスです。「あ、これ私の依頼の出し方が曖昧だったところですね。事実として置きます。仕組みとしては、依頼テンプレを作るのが良さそうですかね」。ファシリテーター自身が、防御せず、事実として受け止め、仕組みの話に進む。この10秒の実演は、どんな説明よりも雄弁に「この場のルール」をチームに教えます。レッスン1『ファシリテーターは「答えを出す人」ではない』から繰り返しているとおり、あなたの振る舞いは、いつもチームの教材です。
それでも壊れてしまった日の、あとしまつ
最後に、あまり考えたくない場面の話をします。予防線も切り返しも間に合わず、誰かが強い言葉で責められ、重い空気のまま時間切れになった。そういう日は、長くファシリテーションをやっていれば、いつか来ます。
やることは順番がすべてです。第一に、その日のうちに、個別に。責められた人に短く声をかけます。慰めや裁定ではなく、「今日の場、途中からきつかったですね。守りきれずすみません」と、場の責任者として受け止める。責めた側にも、後日落ち着いてから、意図と影響を分けて話します(意図は分かる、影響はこう出た)。第二に、次回の冒頭は、問題より関係を先に。壊れた直後の回でいきなり問題の続きを掘ってはいけません。感謝を出し合う、雰囲気だけ確認する、軽い話題でふりかえる。関係の温度が戻ってから、仕組みの話に帰ります。第三に、落ち着いた頃に、この経験をDPAに還元する。「前に一度、きつい回がありましたよね。ああならないための約束を足しませんか」。壊れた経験は、隠すと傷のまま残りますが、ルールに変換すると財産になります。一度本気で壊れかけたチームのDPAは、テンプレートを写しただけのDPAとは重みが違います。
ここまでのまとめ
実践に入る前に、ここまでの4ステップで学んだことを、ひとつずつ思い出しておきましょう。
ステップ1:なぜ、犯人探しは始まってしまうのか
犯人探しは解決に繋がらず、関係の質を壊し、次回から本音が出なくなります。これは認知の初期設定なので、起こる前が9割。Norm Kerthの最優先条項をルールとして合意しておきます。
ステップ2:その場の切り返し:4つの技
名前を場面に言い換える、主語を「私たち」に付け替える、時系列に逃がす、抱え込んだ人の荷物を分ける。否定してから曲げるのではなく、受け止めてから曲げるのがコツです。
ステップ3:効いたかどうかは、実測で決める
切り返しが効いたかは、そのあとの発言量で測ります。掘り下げでは「なぜ」を「何があった」に言い換える。忙しかった、で止めずにあと2段掘ると、仕組みが顔を出します。
ステップ4:ファシリテーター自身が「犯人」のとき
自分が名指しされたときも、同じ技が使えます。壊れてしまった日は、その日のうちに個別に声をかけ、次回の冒頭は問題より関係を先に。その経験はDPAに還元します。
よくある疑問
Q. でも、本当に個人のスキル不足が原因のこともありますよね?
あります。そして、それはふりかえりの全体の場で扱う議題ではありません。個人の育成は1on1やメンタリングの仕事です。ふりかえりで扱うのは「スキルが不足している人がいても事故らない仕組み」の方です。レビュー、ペア作業、チェックリスト。切り分けを覚えてください。人を育てる話は個別の場で、仕組みを直す話をみんなの場で。
Q. 責める発言をするのが、上司や声の大きい人の場合は?
一番難しいケースです。真正面から制止せず、技①②が使いやすいです。「◯◯部長の指摘の場面、何があったか順に見たいです」と、発言を尊重した形で場面へ誘導する。予防線として、DPAの合意を上司も含めて取っておくことが、後々あなたを守ります。それでも構造的に難しい場合の戦い方は、レッスン11(スキップ圧力と組織の話)でも扱います。
Q. その場で感情が爆発してしまったら、どうすればいいですか?
技でさばける温度を超えたら、無理に進行を続けないでください。「一回、5分休憩しましょう」。休憩は敗北ではなく、立派な介入です。再開後も収まらないなら、その議題は全体の場から降ろし、「この件は別途、関係者で場を設けます」と宣言して先へ進む。感情のもつれの当事者同士の調整は、全員の前でやるほど拗れます。ふりかえりの場を守ることと、問題から逃げないことは、両立できます。
Q. 誰も責めていないのに、謝罪大会になってしまいます
「すみません」が飛び交う場は、一見平和ですが、実は全員が技④の抱え込みをしている状態です。「今日は謝罪禁止にしましょうか。代わりに事実と仕組みだけ話しましょう」と、軽く笑いに変えて宣言してしまうのが効きます。謝罪をやめると、意外なほど分析が始まります。
今週の実践
仕込みをひとつ、切り返しをひとつ。仕込みは、冒頭のルール合意です。DPAでもルール確認でもいいので、「人ではなく仕組みの話をする」を全員の合意として掲げてから始めてください。切り返しは、技①だけでいい。誰かの名前が原因として出たら、「◯◯さんの場面で、何があったんでしょう?」。名前を場面に言い換える、この一手だけ練習してください。
そして掘り下げるときは、「なぜ」を「何があった」に。忙しかった、で止めずに、あと2段。
持ち帰りを3行で。犯人探しは悪意ではなく初期設定。だから予防線(ルール・レイアウト・言葉選び)で先回りする。矢印が人に向いたら、否定せず受け止めて、場面と仕組みへ曲げる。そして掘り下げは「何があった?」で、忙しかったのあと2段先まで。
レッスン6は、掘り下げて見つけた原因を、実行される「アクション」に変える技術です。「意識します」「頑張ります」で終わるアクションを退治しにいきます。
今週の実践課題
- 次のふりかえりの冒頭、DPAまたはルール確認で「人ではなく仕組みの話をする」を全員の合意として掲げる
- 誰かの名前が原因として挙がったら、「◯◯さんの場面で、何があったんでしょう?」と、名前を場面に言い換えて返す
- 掘り下げでは「なぜ?」の代わりに「何があった?」「そのとき何が起きてた?」を使ってみる
- 自分の失敗が議題になったら、防御も弁明もせず「事実として受け止めて、仕組みを一緒に考える」を実演してみせる
ひとりで進める場合:最近の自分の失敗をひとつ選び、「私が◯◯だったから」という説明を、「◯◯という仕組み・状況だったから」に書き換えてみましょう。人が原因の説明と仕組みが原因の説明で、次に打てる手がどう変わるかを見比べてください。
読み終える前に、少しだけ書いてみましょう
自分の過去のふりかえりと照らし合わせて考えると、読んだ内容が身につきます。書いた内容はこの端末に保存され、あとからまとめて読み返せます。すべての問いに一言でも書けば次へ進めます。
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ここから下は、実践したあとに書きます
上の問いに答えたら、いったんここを離れて、実際にやってみてください。やってみたあとに、このページへ戻ってきて続きを書きましょう。
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