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FACILITATOR — LESSON 6 / 12

「意識します」を退治する。実行されるアクションの作り方

今週のゴール目安 約36分

アクションを「絞る・具体化する・小さくする」の3原則で仕上げ、SMARTの問いを進行のセリフとして使える

ふりかえりの終盤、残り5分。「じゃあ、来週はレビューを意識していきましょう」「そうですね、コミュニケーションも増やしていきたいですね」。全員がうなずいて、解散。

1週間後。誰も、何も、覚えていません。

さらに1週間後のふりかえり。「先週なにか決めましたっけ?」「なんかレビューの話しましたよね」「あー、してましたね」。そして今週もまた、残り5分で「意識していきましょう」。この無限ループに入ったチームは、数か月後、こう言うようになります。「ふりかえり、やる意味あります?」。

身に覚えのある光景だと思います。ここまでの5週間で、場を作り、聴き、意見を引き出し、矢印を仕組みへ曲げてきました。今週は、その集大成であるはずのアクションの話です。ふりかえりの価値は、最終的にアクションが実行されたかどうかで決まります。どんなに良い対話ができても、何も変わらなければ、チームは「ふりかえりって意味あるんだっけ」に行き着きます。そして、実行されるかどうかの大半は、アクションが決まった瞬間の品質で決まっているのです。

なぜ「意識します」が生まれるのか

「意識します」「気をつけます」「増やしていきたいですね」。この種のアクションが生まれる理由は、怠慢ではありません。構造です。

第一に、時間切れ。ふりかえりの時間配分は、思い出しと共有で盛り上がり、アクションは残り時間に押し込まれがちです。残り5分で具体化する余力はなく、ふわっとした言葉で合意した気になって終わります。第二に、具体化は頭を使うから。「レビューを早くしたい」と言うのは簡単ですが、「誰が、いつ、何をするか」まで削り出すのは、それ自体がひと仕事です。疲れたふりかえりの終盤に、一番エネルギーの要る作業が置かれている。第三に、全部やろうとするから。出てきた課題10個に全部アクションを付けると、1つあたりの解像度は10分の1になります。

つまり処方箋も構造で打ちます。時間を先に確保し、数を絞り、問いで具体化する。順に見ていきます。

そもそもアクションとは何か。新しい挑戦である

原則に入る前に、言葉の定義をひとつ置かせてください。ふりかえりのアクションとは、行動変容、つまり今までやっていなかった新しい行動をひとつ始めることです。「引き続き頑張ります」「今のペースを維持します」は、決意であってアクションではありません。現状維持に会議の時間は要らないからです。「もっと気をつけます」も同じで、既存の行動の強度を精神力で上げる宣言は、翌週には元に戻ります。

判定は簡単です。そのアクションに、「初めて」が入っているか。初めて作るテンプレ、初めて設ける時間帯、初めて試す順番。どんなに小さくても「初めて」が入っていれば、それは挑戦であり、実行すれば必ず何かが分かります。入っていなければ、それは現状の言い換えです。ファシリテーターは、アクション候補が並んだ時点でこの目で眺めて、「この中で、新しくやることってどれでしょう?」と一度問うてみてください。この問い一つで、決意表明の付箋がふるい落とされ、挑戦の付箋だけが残ります。

原則①:絞る。最大3つ、できれば1つ

まず数の話から。アクションは最大3つです。そして迷ったら、1つにしてください。実例記事の30分ふりかえりでも、最後のパートは「次に試すことを、ひとつだけ」でした。あれは初心者向けの簡略化ではなく、熟練チームにも通じる原則です。3つのアクションを60%ずつやるより、1つを完遂する方が、チームは確実に変わり、しかも「やりきれた」という成功体験が次のふりかえりの燃料になります。

絞り方には道具があります。定番はドット投票。全員にドットシールを配り、大事だと思う候補に投票する。持ち点に傾斜をつける方式(最重要に6票、次に3票、その次に1票)なら、僅差のだんご状態になりにくく、一発で決まります。オンラインならボードの投票機能や、絵文字リアクションで代用できます。投票の前にひとつだけ声をかけてください。「実現できそうか、は一旦忘れて、効きそうかで選んでください」。実現性の心配は、票を無難な方へ吸い寄せます。実現性の問題は、選んだあとに原則③の小さくする技で解決できるので、選ぶ段階では効き目で選んでいいのです。

もうひとつの道具が、2軸で並べるEffort & Painです。

Effort & Painのマトリクス。手間小×痛み大は今すぐやる、手間大×痛み大は分割して着手、手間小×痛み小は余力があれば、手間大×痛み小はやらない

横軸に手間(Effort)、縦軸にそのアクションで解消される痛み(Pain)。候補の付箋を貼り分けるだけで、優先順位の議論がほぼ要らなくなります。狙い目は左上、手間が小さくて痛みが大きく減る領域です。右上の大物は、やらないのではなく、分割して左上に持ち込みます(この分割は原則③で扱います)。そして右下は、勇気を持って捨てる。やらないと決めることも、アクションの決定です

絞り込みの最中、ファシリテーターが黙って見ておくべきポイントがひとつあります。投票やマトリクスの結果と、場の空気がずれていないか、です。得票1位が「無難な定番」で、2位に「誰かが勇気を出して書いた本丸」が僅差で並んでいたら。「1位はこれですが、2位のこれ、気になっている人が多そうですね。少しだけ話しませんか」と、結果を絶対視せず一呼吸置く。道具は判断を助けますが、判断そのものはチームの対話に残す。ここでもレッスン1『ファシリテーターは「答えを出す人」ではない』の原則、道具に委ねすぎず、チームに委ねる、が生きています。

ファシリテーターとして大事なのは、絞る行為に罪悪感を持たせないことです。「選ばれなかった付箋は消えません。ボードに残しておいて、来週また見ましょう」。この一言で、安心して1つを選べる場になります。

原則②:具体化する。SMARTを問いに変える

数を絞ったら、選ばれた1つを削り出します。道具はSMARTな目標です。Specific(具体的)、Measurable(測定可能)、Achievable(達成可能)、Relevant(関連性)、Time-bounded(期限)。フレームワークとして暗記する必要はありません。ファシリテーターは、これを進行のセリフとして持っておけばいいのです。

「レビューを意識します」という曖昧なアクションに、「具体的には?」「誰がいつ?」「できたとどう分かる?」の問いを重ねて、実行可能なアクションに削り出す

使う問いは、実質3つで足ります。

「具体的には、何をしますか?」(S)。「レビューを意識します」→「依頼から24時間以内に最初のコメントを返す」。行動の形が見えるまで聞きます。「誰が、いつやりますか?」(A・T)。「レビュー依頼を受けた人が、毎朝10時の確認のときに」。名前とタイミングが入った瞬間、アクションは初めて予定になります。「できたと、どう分かりますか?」(M)。「来週のふりかえりで、24時間を超えた件数を見る」。確認方法が決まると、来週のふりかえりの冒頭の議題まで、自動的にひとつ決まります。

問答の実況を、少しだけ。「じゃあTryは『テストを充実させる』で」「いいですね。具体的には、何をしましょう?」「うーん、ユニットテストを増やす、とか」「どのあたりから増やします?」「一番バグが出てる決済まわりですかね」「いいですね。誰が、いつやれそうですか?」「決済は私が触ってるので…来週の火曜、機能実装の前に1時間取ります」「できたかどうかは、来週どう確認しましょう?」「テストの本数を報告します。3本が目標で」。所要2分。「テストを充実させる」が「火曜に私が決済まわりのテストを3本書く」になりました。ファシリテーターは一度も答えを言っていません。問いを4つ置いただけです。

注意点をひとつ。SMARTの5要素すべてを満たそうとしないでください。原典でも「すべてに当てはまらなくてもOK」とされています。完璧な目標定義を目指して残り時間を溶かすより、3つの問いに答えられる程度の具体性で十分です。それから、この具体化の問答は、慣れないうちは時間がかかります。何度も練習するうちに速く上手になり、やがてチームは問われる前から具体的なアクションを出すようになります。焦らず、毎週の型として続けてください。

もうひとつ、「Tryの深掘りができない」という悩みには、意外な真犯人がいます。Tryが浅いのは、たいていTryを考える段階の問題ではなく、その手前の材料が浅いのです。KeepやProblemが「コミュニケーション不足」のような曖昧な塊のままだと、そこから生まれるTryも「コミュニケーションを増やす」という曖昧な塊になります。確かめる問いは「そのTryは、どの出来事を狙っていますか?」。ボードの中の特定の付箋を指させないTryは、願望であって対策ではありません。指させなかったら、アクションを削るのではなく、一度思い出すステップに戻って出来事の解像度を上げてください。アクションの質は、思い出しの質で決まります

原則③:小さくする。1%でいい

レッスン5『「人のせい」が始まったら。矢印を仕組みへ曲げる技術』で、原因を仕組みまで掘り下げました。ところが掘り当てた根本原因は、しばしば大きすぎます。「組織の評価制度が」「アーキテクチャが」。正しい分析ほど、1週間のアクションにできないサイズの怪物が出てきます。ここで使う考え方が、ささいなことの積み重ね(Marginal Gains)です。合言葉は「1%でいいので、今より良くする」。

怪物を倒そうとせず、切り崩します。「アーキテクチャ刷新」は無理でも、「一番触るのが怖いモジュールに、テストを1本足す」はできます。「評価制度を変える」は無理でも、「次の1on1で上司にこの話を5分する」はできます。アイデア出しの段階からこの発想を仕込むこともできます。「1%の改善案を、質より量で書いてください。ばかばかしいのも歓迎です」と、ブレインストーミングの4つのルール(結論厳禁・自由奔放・質より量・結合改善)を添えて発散させる。大きな正解をひとつ探す空気より、小さな案を10個並べる空気の方が、手が動きます。1%のアクションは、効果が小さい代わりに、確実に実行されます。そして実行されたという事実が、レッスン4『「特にないです」の正体。意見が出ないときの介入』で話した「意見を出せば何かが変わる」の実例になり、チームの信頼残高を増やします。小さくて確実は、大きくて未遂に勝ちます

仕上げに、言葉の形を整える小技をひとつ。アクションは行動の形で書きます。「割り込みを減らす」は状態の希望であって行動ではありません。「集中タイムを14〜16時に設定し、その間はメンションに翌朝返す」なら行動です。同じく、「◯◯しない」という禁止形は、代わりに何をするかまで決めて初めて機能します。人は「しない」を実行できません。「する」に翻訳してあげるのも、ファシリテーターの問いの仕事です。「やめる代わりに、何をしましょう?」。

時間を先に確保する

3原則を回すために、ファシリテーターがやるべき設計がひとつあります。アクションの時間を、先にタイムテーブルで確保することです。60分のふりかえりなら、終了15分前になったら、議論の途中でも収束に入ります。「名残惜しいですが、ここからアクションタイムです」。

これはレッスン3『聴く技術。ファシリテーターの主な動詞は「話す」ではない』のトラッキングと時計を使うの合わせ技です。議論が盛り上がっているのを切るのは勇気が要りますが、思い出してください。盛り上がった議論も、アクションにならなければ、来週には温度が消えています。逆に、時間が本当に足りなかった回は、無理にひねり出さず「今日はアクションなし。この議題は来週の頭にやる」と決める方が誠実です。曖昧なアクションを量産するくらいなら、アクションゼロの方がまだ健全です。ゼロが続くようなら、それは時間配分の設計ミスなので、次回の構成を変えましょう。

アクションの置き場所とオーナー

決まったアクションには、置き場所と持ち主を与えます。置き場所は、チームが毎日見る場所です。タスクボードの一番上、チャットのピン留め、朝会のアジェンダの1行目。ふりかえりのボードの中に置き去りにされたアクションは、ボードと一緒に忘れられます。

持ち主については、ひとつ繊細な話があります。「誰がやりますか?」の問いは、下手をすると押し付け合いか、いつもの気配りの人の一人負けになります。コツは2つ。言い出した人に自動で割り当てないこと。「言ったもの負け」のルールが一度でも成立すると、レッスン4の意見が出ない問題に逆戻りします。そして、チーム全員でやるアクションと、個人が持つアクションを区別すること。「24時間以内レビュー」は全員のアクションで、「テンプレを作る」は誰か1人のアクションです。全員のものには確認の仕組みを、個人のものには本人の同意を。「◯◯さん、引き受けてもらって大丈夫ですか?無理なら分けましょう」の確認を、ファシリテーターが挟んでください。

ここまでのまとめ

実践に入る前に、ここまでの4ステップで学んだことを、ひとつずつ思い出しておきましょう。

ステップ1:なぜ「意識します」が生まれるのか
時間切れ、具体化は頭を使うこと、全部やろうとすること。この3つが「意識します」を生みます。アクションとは行動変容であり、新しい挑戦が入っているかを確かめます。原則の1つ目は、最大3つ、できれば1つに絞ること。

ステップ2:原則②:具体化する。SMARTを問いに変える
SMARTは、覚えるものではなく問いに変えて使います。「具体的には、何をしますか?」「誰が、いつやりますか?」「できたと、どう分かりますか?」。答えられないのは、その手前の材料が浅いサインです。

ステップ3:原則③:小さくする。1%でいい
ささいなことの積み重ねで十分です。小さくて確実は、大きくて未遂に勝つ。1%の変化でも、行動の形にまで落ちていればアクションとして成立します。

ステップ4:時間を先に確保する
アクションは、やる時間をカレンダーへ先に置いた時点で半分終わります。置き場所とオーナーを決めて、次のふりかえりで必ず見返せる場所に残しておきます。

よくある疑問

Q. 絞る以前に、アクション候補がそもそも出てきません
2つの原因が考えられます。1つは材料切れ。思い出しと共有が薄いと、対策を考える燃料がありません。この場合はアクションの時間を削ってでも、前のステップに戻る方が結果的に早いです。もう1つは、完璧な解決策を探している場合。「これで解決します」と言い切れる案しか出してはいけない空気があると、手が止まります。「解決しなくていいです。1%良くなりそうな実験を出してください」と、求める水準を明示的に下げてあげてください。ばかばかしい案を歓迎する一言も効きます。良い案は、くだらない案の隣から出てきます。

Q. 問いを重ねると、詰めているみたいで気まずいです
分かります。連続で問うと尋問の圧が出ます。和らげ方は3つ。まず、問いの前に一度受け止める(レッスン3の受容。「いいですね。で、具体的には」)。次に、問いを全員に開く(「これ、誰がいつやるのがよさそうですかね?」と本人でなく場に向ける)。最後に、ボードに書きながら問う。視線が人でなくボードに向くので(レッスン2『場を設計する。ふりかえりは始まる前に半分決まっている』の人対問題です)、詰め感がぐっと減ります。

Q. アクションが毎回「話し合う」「検討する」になります
「話し合う」は、アクションの形をした先送りです。ただし全否定はしないでください。本当に話し合いが必要な議題もあります。見分けの問いはこうです。「その話し合い、いつ、誰と、何が決まったら終わりですか?」。答えられれば、それは日程の入った立派なアクションです。答えられなければ、今この場でもう1段specific化するか、候補から外します。

Q. 個人の改善アクションでもいいのでしょうか?
構いません。ただし、ふりかえりの場で扱うのは、チームに共有する価値のあるものにしましょう。「私は朝型に変える」だけならひとりのふりかえりで十分ですが、「私が朝型に変えるので、朝会を30分早めたい」ならチームの話です。個人のスキル課題はレッスン5で話したとおり、1on1の領分です。

Q. 毎週アクションを作っていたら、積み上がって回りません
良い悩みです。答えは「新しいアクションを足す前に、先週のを見る」。続けるか、完了にするか、やめるか。アクションは足すだけでなく、引くもの。この管理はまるごと来週のテーマ、フォローアップです。

今週の実践

来週のふりかえりで、3つだけ仕込んでください。第一に、タイムテーブルでアクションの15分を先に確保する。第二に、候補が出たら最大3つ、できれば1つに絞る。第三に、選ばれたものに3つの問いを当てる。「具体的には?」「誰が、いつ?」「できたと、どう分かる?」。

そして決まったアクションを、チームが毎日見る場所に貼り出してください。それが来週、フォローアップの教材になります。

持ち帰りを3行で。アクションの実行率は、決まった瞬間の品質で決まる。品質は、絞る(1つでいい)・具体化する(3つの問い)・小さくする(1%でいい)の3原則で作る。そして、アクションの時間は先に確保し、決まったものは毎日見える場所へ。

レッスン7は、今週作ったアクションのその後を追いかけます。決めたのにやらない、を仕組みで解決する回です。

このレッスンに関連する手法

進め方の詳細は各手法ページで確認できます。

今週の実践課題

  • 次のふりかえりで、アクションの数を最大3つ、できれば1つに絞る(絞り方はドット投票でよい)
  • 決まりかけたアクションに、3つの問いを順に当てる。「具体的には何をする?」「誰が、いつ?」「できたと、どう分かる?」
  • アクションの時間を終了15分前から始められるよう、タイムテーブルに先に確保しておく
  • 決まったアクションを、チームの見える場所(タスクボード・チャットの固定など)に貼り出す

ひとりで進める場合:自分が最近立てた個人の目標をひとつ選び、「具体的には・いつ・どう分かる」の3つの問いで書き直してみましょう。書き直す前と後で、実行できそうな感覚がどれだけ変わるかを味わってください。