型⑤関係の質を高める
組織の成功循環モデルを理解し、コミュニケーションを活性化するふりかえりができる
結果ではなく、関係から始める
チームのたいていの問題は、突き詰めるとコミュニケーションの質が低く、コラボレーション(協業)が欠けているために起こります。仕様の認識違い、手戻り、抱え込み、遠慮。どれも技術の問題に見えて、根っこは「言えなかった」「聞けなかった」にたどり着くことが多いのです。
この「関係の質」という言葉は、ダニエル・キムの組織の成功循環モデルで定義されたものです。このモデルは、組織が成功していくグッドサイクルを「関係の質 → 思考の質 → 行動の質 → 結果の質」の順で示しています。関係の質が高まると、率直に考えを出し合えるので思考の質が上がり、思考の質が上がると行動が変わり、行動が変われば結果がついてくる。そして良い結果が、さらに関係を良くします。逆に、結果だけを直接高めようと号令をかけるチームはどうなるか。数字が未達になると誰かのせいにしたくなり(関係の質の低下)、責められた側は防御的になって本当のことを言わなくなり(思考の質の低下)、指示されたことだけをこなすようになり(行動の質の低下)、結果はさらに悪くなる。バッドサイクルです。急がば回れ。結果を良くしたければ、関係から始めるのがこのモデルの教えです。
関係の質が高いチームでは、問題は隠されずにすぐ共有されて解消に向かい、成功は独り占めされずに伝搬して、全員が再現できるようになります。この型⑤は、その「関係の質」に正面から取り組むふりかえりです。使いどころは、チームが結成されて間もないとき、メンバーの入れ替わりがあったとき、コミュニケーションに違和感を覚えたとき。そして、リモートワークで雑談が減り、やりとりが事務連絡だけになってきたと感じたときです。
この型の設計図
型⑤は4つの手法のリレーで、全体を貫くレンズは「人と人のあいだで何が起きていたか」です。
まず先月の目標・今月の目標で、メンバーそれぞれの内面を開示し合います。目標には、その人が何を考え、何を大事にしているかという価値観が映ります。仕事の話しかしないチームに、互いの人となりが流れ込む10分です。
次にStory of Story。ひとつの対象(機能、チケット、問い合わせなど)が着手から完了までにたどった道のりを、みんなで追いかける手法です。この型では、道のりの上で起きたコミュニケーションとコラボレーションに着目します。誰と誰の連携がうまく流れたか、どこで情報が途切れて止まったか。「チームの関係」という抽象的な話題を、実際にあったひとつのものの経路という具体的な事実の上で話せるのが、この組み合わせの妙です。
アクションは質問の輪で決めます。輪になって「次に取り組むべきことは何だと思いますか」という問いを順番に回し、周回しながら意見を統合していく手法です。声の大きい人の案でも、ファシリテーターの案でもなく、全員が発言し、全員で決めたという感覚が残ります。決め方そのものが関係の質を高める、この型ならではの選択です。
締めは360度感謝。1人に対して全員から感謝を伝え、それを全員分回します。時間はかかります。しかし終わったあとのチームの空気は、やった人にしか分からない温かさになります。
今週のアジェンダ。これをやってみましょう
5〜9人・90分を想定した時間割はこちらです。
| 時間 | ステップ | 手法 | ねらい |
|---|---|---|---|
| 0〜10分 | 場を作る | 先月の目標・今月の目標 | 目標の開示を通じて、互いの価値観に触れる |
| 10〜45分 | 出来事を思い出す | Story of Story | ひとつの対象の道のりから、協働の流れと詰まりを見る |
| 45〜75分 | アクションを決める | 質問の輪 | 問いを回しながら、全員でアクションを練り上げる |
| 75〜88分 | ふりかえりをカイゼンする | 360度感謝 | 全員から全員へ、感謝を伝え合って締める |
| 88〜90分 | 締め | ボードと目標の写真を撮って解散 |
このアジェンダも、手で組む必要はありません。下のリンクを開いてください。
アジェンダ作成ツール「ふりかえりを作る」が、型⑤の手法が選ばれた状態で開きます。人数と時間をチームに合わせて選び直し、日付とチーム名を入れて、印刷か共有リンクで持ち帰ってください。当日は上からなぞるだけです。
当日のボードを準備する
型⑤のボードは、道と輪でできています。
上の隅に今月の目標を貼るコーナー。ここは月が変わるまで貼りっぱなしにするので、消されない場所を選んでください。中央の一番広い場所に、Story of Storyの道を1本、左から右へ緩く波打たせて引いておきます。まっすぐな直線より、うねった道のほうが「物語をたどる」気分が出て、付箋も貼りやすくなります。道の上に出来事の付箋が並び、連携が流れた場所に緑、詰まった場所に青の小さな目印を足していきます。下の空きに質問の輪の回答を可視化するボードを用意してください。輪になって話す手法ですが、声は消えるので、書き取る場所が要ります。360度感謝はボード不要、椅子だけあれば大丈夫です。
もうひとつ、この型だけの準備があります。題材の候補を2〜3個、事前に考えておくことです。Story of Storyの題材選びが当日ゼロからだと、そこで10分溶けます。「先週思ったより時間がかかったもの」をあなたの頭の中で2〜3個ノミネートしておき、当日は「候補としてはこのあたりですが、他にあります?」から始めると滑らかです。
詳細解説1。先月の目標・今月の目標(0〜10分)
月初のふりかえりの冒頭にぴったりの場作りです。まず、先月立てた目標があれば、その達成を確認します。達成できた人には全員で拍手して褒め称え、達成できなかった人は責めずに、次への抱負を語ってもらいます。初回は先月分がないので、ここは飛ばして今月の目標から始めます。
今月の目標は、全員で付箋に書き出します。1人1〜2個まで。業務の目標でも、スキルの目標でも、私的な目標でも何でも構いません。むしろこの「何でも」が本体です。声かけはこうです。
「今月の目標を1〜2個、付箋に書いてください。仕事の目標じゃなくて大丈夫です。『毎週サウナに行く』とか『子どもと朝ごはんを作る』とか、自分の価値観から出てきた目標を歓迎します」
堅苦しい目標しか出なそうな空気を感じたら、あなたが先にプライベート寄りの目標を見せてしまうのが早道です。書けたら全員で共有し、チームのよく見える場所に貼り出して、目標に向かってがんばっていくことを激励し合って終わります。どんなに突拍子のない目標が出ても、個人の価値観から生まれたものとして受け入れてください。「その目標、いいですね。どうしてそれを選んだんですか?」の一問で、その人の大事にしているものが場に出てきます。この10分の開示が、この後90分の話しやすさの土台になります。
補足を2つ。ここでの目標は、達成を厳密に管理するためのものではないので、精緻なアクションを作りたいときのSMARTな目標とは別物として扱ってください。ゆるく立てて、月末に拍手か抱負で受け止める。それで十分に役目を果たします。もうひとつ、年始のふりかえりでは、スケールを上げて「去年の抱負・今年の抱負」を語り合うのも定番です。1年単位の目標には、月単位よりさらに深い価値観が映ります。
詳細解説2。Story of Story(10〜45分)
ひとつの対象がたどった道のりを追いかける手法です。まず題材をひとつ選びます。実際にあった具体的なものから、「思ったより時間がかかったもの」「引っかかりのあったもの」を選ぶと話が転がります。ユーザーストーリーに限らず、機能、不具合票、問い合わせ、注文など、着手から完了までの経路をたどれるものなら何でも構いません。ただし、大きすぎる対象は1回で追いきれないので、今日の35分で最初から最後まで並べられる大きさにしてください。題材が決まったら、どんなものかを短く書いてキャンバスの左上に置きます。ここが物語の始まりです。
次に10分ほどで、その対象が着手から完了までにたどった主な出来事を、全員で書き出して左から右へ並べます。誰から依頼が来たか、どこで止まったか、誰の手を経たか、いつ完了したか。そして型⑤では、ここにもう1色の付箋を足します。
「出来事と一緒に、そのとき人と人のあいだで起きていたことも書いてください。『ここでAさんがすぐレビューしてくれた』『ここで3日、返事待ちだった』『この相談は口頭で一発だった』。連携がうまく流れた瞬間と、途切れた瞬間の両方を探しましょう」
経路が並んだら、その中から次も繰り返したいよかったことを書き出し、続けて避けたいこと・変えたほうがよいことを書きます。ここで効くのが、具体の力です。「コミュニケーションが足りない」という一般論ではなく、「あの件は、ここで3日止まった」という事実から話が始まるので、関係の話なのに誰も傷つかず、責める話にもなりません。悪いのは人ではなく、経路の形だと全員が見えるからです。よかったこと・変えたいことが出そろったら、話し合いはここでいったん止めます。アクションの決定は、次の質問の輪に持ち越します。
なお、この型に慣れてきたら、Story of Storyの代わりに、そこから日本語圏で派生した「チームストーリー(過去)」を使うのもおすすめです。道の上に付箋を並べる形はそのままに、流れるものが「ひとつのもの」から「チームの時間」に変わり、コミュニケーション・コラボレーションそのものを主役に据えられます。ものの詰まりを直したい回はStory of Story、チームの関わり方を直接見たい回はチームストーリー、と使い分けてください。
詳細解説3。質問の輪(45〜75分)
全員で輪になります(オンラインなら発言順を画面に貼り出します)。使う問いはひとつだけ。「あなたは、私たちが次に取り組むべきことは何だと思いますか」。
1周目。最初の質問者が左隣へこの問いを投げ、答えた人が次の質問者になって、また左隣へ。この繰り返しで一周します。答えるときは忖度せず、自分の意見を。最初は具体的でなくても、想いが伝われば十分です。掘り下げの質問はまだせず、内容が分からないときだけ確認します。手の空いている人が、回答をホワイトボードに漏れなく可視化してください。
2周目。可視化されたチームの意見を眺めて、「いいな」と感じたものを自分の意見に取り込み、改めて自分なりの回答を作って答えます。3周目は統合と具体化です。いつ行うのか、誰が行うのか、何のために行うのかを掘り下げながら回答します。4周目で、チームとして何を行うかを最終決定します。意見が割れたら、追加で5分だけ議論して決めてください。
この手法の見どころは、ひとりひとりの意見が周回のたびに混ざり合い、徐々にチームの総意へ変化していく様子です。どんな意見も否定せず、「なぜこの人はそう考えたのだろう」と捉えて、意図が分からなければその場で聞く。Story of Storyで見つけた経路の詰まりが、全員の言葉を通って、全員のアクションになります。決まったアクションの実行率が高いのは、内容が優れているからだけではありません。自分の言葉が入っているからです。
途中で詰まる人がいたら、慌てずにこう伝えてください。「ボードの意見の中で、一番いいなと思ったものはどれですか? そこに一言足すだけで大丈夫です」。ゼロから答える義務を外してあげると、輪はまた回り始めます。
周回の時間配分も、実況で示しておきます。30分を1周目10分・2周目8分・3周目8分・4周目4分と刻むイメージです。周回の切り替えの宣言はこうです。「1周目、全員の意見が出ました。ボードを見てください。ここからの2周目は、人の意見を盗むのが正式ルールです。いいなと思った意見を自分の答えに混ぜて、もう一周いきましょう」。この「盗んでいい」の一言が、輪の空気を競争から共創へ切り替えます。4周目の締めは「では最後の一周。チームとして、これをやる、の形で答えてください」。
詳細解説4。360度感謝(75〜88分)
締めは360度感謝です。全員が輪になり、誰か1人が輪の中心に入ります。中心の人に対して、全員から、今週の感謝や普段感じている感謝を伝えます。1人あたり30秒〜2分、思い思いに。10秒ほど沈黙が続いたら中心の人を交代し、全員が中心を経験するまで続けます。
「最後に、感謝を伝え合って終わりましょう。まず私が真ん中に入ります。皆さんから私へ、今週の『ありがとう』があればください。……では次、○○さんが真ん中です」
照れが出やすい手法なので、ファシリテーターのあなたが最初に受け手になり、最初の送り手にもなって、手本の温度を見せてください。感謝は具体的に。「いつも助かってます」より「水曜の障害のとき、真っ先にログを引いてくれて助かりました」のほうが、何倍も深く届きます。そして、沈黙を大事に。気恥ずかしさから言い出せない時間も、誰かが言葉を組み立てている時間です。急かさず、口火が切られるのを見守りましょう。言葉で伝えるのが苦手な人が多いチームなら、先に5分で1人1枚ずつ宛名付きの感謝の付箋を書き、貼り出してから読み上げる形にすると、ぐっとやりやすくなります。
時間・人数が違うときの調整
60分しか取れない場合
。目標の共有を5分に、Story of Storyを25分に圧縮し、質問の輪は2周構成(1周目で意見出し、2周目で統合と決定)にして20分、360度感謝を8分。リンク先で時間を60分に変えれば配分は自動で組み直されます。
10人を超える場合
。質問の輪と360度感謝は人数に比例して時間が伸びます。Story of Storyまでを5人前後のグループに分け、質問の輪は各グループで回して、最終決定だけ全体で。360度感謝は付箋方式に切り替えるのが現実的です。
オンラインの場合。Story of Storyはオンラインホワイトボードと好相性で、左から右へ経路を並べるだけで成立します。質問の輪は発言順リストを画面共有し、360度感謝は全員がカメラをオンにして、受け手の名前を画面に大きく出すと、輪の感覚が作れます。
ここまでのまとめ
実践に入る前に、ここまでの4ステップで学んだことを、ひとつずつ思い出しておきましょう。
ステップ1:結果ではなく、関係から始める
型⑤は、組織の成功循環モデルが土台です。関係の質 → 思考の質 → 行動の質 → 結果の質。結果を良くしたければ、関係から始めるという考え方でした。
ステップ2:当日のボードを準備する
先月の目標・今月の目標から入ります。業務でもスキルでも私的な目標でも構いません。個人の価値観から生まれたものとして、そのまま受け入れます。
ステップ3:Story of Story
実際にあった具体的な出来事を1つ選び、着手から完了までの道のりをたどります。見るのは、人と人のあいだで起きていたこと。悪いのは人ではなく、経路の形です。
ステップ4:360度感謝
中心の人に対して、全員から感謝を伝えます。ファシリテーターのあなたが最初の受け手になり、最初の送り手にもなること。沈黙を大事にしてください。
よくある疑問
Q. プライベートの目標なんて書きたくない、という人がいます
まったく問題ありません。開示は招待であって、義務ではないからです。「何でも歓迎」と「何でも書け」は別物。仕事の目標だけ書く自由も守られてこそ、安心して開示できる場になります。回を重ねて場が温まると、少しずつ私的な目標が混ざり始めます。それを待ちましょう。
Q. Story of Storyの題材がひとつに絞れません
迷ったら「完了までに、予想の2倍以上かかったもの」で選んでください。それでも複数残るなら、目標共有のあとに30秒で多数決を。題材選びに5分以上使うのはもったいないです。選ばれなかった題材は、次回のこの型の題材リストとして残しておけます。
Q. 質問の輪で、前の人と同じ意見しか出てきません
1周目はそれで正常です。むしろ「同じです」を禁止して、「同じ意見の、どこに一番共感したか」を言ってもらってください。同じ結論でも理由は人の数だけあり、その理由の違いこそが2周目以降の統合の材料になります。
Q. うちは今うまくいっています。関係の質のふりかえりは、問題が起きてからでよくないですか?
うまくいっている今こそ、最も効率よく貯金できるタイミングです。関係の質は、問題が起きてから慌てて高めようとしても間に合いません。普段から目標を開示し合い、感謝を伝え合っているチームは、いざ厳しい局面が来たときに「言いにくいこと」を言える体力を持っています。グッドサイクルは、回っているうちに次の一周分の燃料を積むものです。それに、うまくいっている理由を関係のレンズで言語化しておけば、メンバーが入れ替わっても再現できます。
Q. 感謝がお世辞っぽくなって、薄い会になりそうで怖いです
薄くなる原因は、感謝の抽象度です。「具体的なひとつの場面」を必ず添えるルールにしてください。場面が語られた感謝は、お世辞にはなりようがありません。それでも心配なら、Story of Storyのボードを見ながらやるのも手です。経路の上には、感謝の材料が具体的な事実として並んでいます。
今週の実践
上のリンクからアジェンダを開き、人数と時間を合わせて、チームのチャットに貼ってください。目標の共有では、あなたが先にプライベート寄りの目標を見せること。360度感謝では、あなたが最初の受け手と送り手になること。この2つの「先に自分から」が、この型の成否を分けます。終わったら、貼り出した今月の目標はそのまま残しておき、来月の冒頭で見返してください。
ひとりで試すなら、チームメンバーひとりひとりについて「最近助けられたこと」を書き出し、次に会ったとき1つずつ伝えてみましょう。関係の質は、ふりかえりの外でも高められます。
レッスン9は、1つの物事を6つの視点で眺め直す「多角的に捉える」型です。関係の質が上がったチームは、違う視点を出し合うことを恐れなくなります。その力を試す週です。
今週の実践課題
アジェンダはふりかえりを作るを開き、目的で「⑤関係の質を高める」の型を選ぶと3分で作れます(印刷・共有リンク対応)。
- 本文のリンクから型⑤の構成で「ふりかえりを作る」を開き、人数と時間を合わせてアジェンダをチームに共有する
- 先月・今月の目標では、仕事の目標だけでなくプライベートの目標も歓迎する空気を作る
- 360度感謝は照れが出やすいので、ファシリテーターが最初に感謝を伝えて手本を見せる
ひとりで進める場合:チームメンバーひとりひとりについて「最近助けられたこと」を書き出し、次に会ったとき1つずつ伝えてみましょう。
内面の開示を促すには、問いカタログの「感情」の問い(感謝を感じたのは?気持ちが高まったのは?)が役立ちます。 → 問いカタログ
読み終える前に、少しだけ書いてみましょう
自分の過去のふりかえりと照らし合わせて考えると、読んだ内容が身につきます。書いた内容はこの端末に保存され、あとからまとめて読み返せます。すべての問いに一言でも書けば次へ進めます。
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ここから下は、実践したあとに書きます
上の問いに答えたら、いったんここを離れて、実際にやってみてください。やってみたあとに、このページへ戻ってきて続きを書きましょう。
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