型②よいところを伸ばす
ポジティブな側面からふりかえりを組み立て、成功を継続するアクションを作れる
この型が効くチーム
「型②よいところを伸ばす」は、成功やうまくいった部分を自覚して、そこを意図的に伸ばすための型です。人は成功を自覚して初めて、自分の活動限界と、チャレンジできる範囲を知ります。そして人には、マイナスの側面から考え始めると、プラスの側面のアイデアを出しにくくなるという特性があります。だからこの型は、意見がネガティブに偏りがちなチーム、自信を失っているチーム、そしてふりかえりを始めたばかりのチームに、特によく効きます。
問題を無視するわけではありません。よいところを伸ばし続けると、結果として消えたり見えなくなったりする問題も多いのです。問題への正面突破はレッスン6の型③に任せて、今週は「伸ばす」に全振りします。あわせてこの型では、絵を使ったふりかえり、時間を区切った議論、多人数のグループ分け、そして「ふりかえりのカイゼン」の一歩進んだ形も学べます。
今週のアジェンダ。これをやってみましょう
5〜9人・90分の時間割です。
| 時間 | ステップ | 手法 | ねらい |
|---|---|---|---|
| 0〜12分 | 場を作る | 感謝 | 感謝を伝え合い、明るくポジティブな空気を作る |
| 12〜40分 | 出来事を思い出す | 熱気球 | チームを気球に見立て、上昇させた要因と妨げた要因を絵で洗い出す |
| 40〜70分 | アイデアを出し合う〜決める | 555 | グループを入れ替えながらアイデアを膨らませ、アクションに絞る |
| 70〜85分 | ふりかえりをカイゼンする | 役立った・邪魔した・仮定した | 今日の進め方を見直し、次回へのカイゼン案まで作る |
| 85〜90分 | 締め | 伸ばすと決めたことを復唱し、ボードの写真を撮って解散 |
型②の4手法が選ばれた状態で開きます。人数と時間を合わせ、日付を入れて、共有リンクをチームのチャットに貼ってください。当日はこの画面を開いたまま、上から順になぞって進めます。
当日のボードを準備する
今週のボードは、先週のKPTと違って絵が主役です。開始前に、こう区切っておきます。
左端に感謝のレーン。口頭で伝え合った感謝も、余裕があれば黄色の付箋で残しておくと、ボードの左端がずっと明るくなります。中央の一番広い場所が熱気球のキャンバスです。ここは開始前には空けておいてください。絵は当日、みんなで描くのが本番だからです。上昇要因は緑で気球の上側へ、砂袋は青で下側へ。右側に555の作業場をグループの数だけ用意し、その下に締めの役立った・邪魔した・仮定したの枠を取ります。オンラインならフレームを4つ(感謝・気球・555×グループ数・締め)並べれば同じ構造になります。
先週覚えた「アジェンダとボードの対応」は今週も同じです。アジェンダのステップが進むにつれて、ボードの埋まる場所が左から右へ移っていきます。あなたは現在地の時間をアジェンダで確認し、チームの視線をその区画へ集めるだけです。
詳細解説1。感謝(0〜12分)
やり方は驚くほど単純です。「◯◯さん、◯◯をしてくれてありがとう」を、思いついた人から伝えていく。それだけです。声かけはこうします。
「今日は最初に、感謝を伝え合うところから始めます。この1〜2週間で『ありがとう』と思ったこと、思いついた人からどうぞ。私からいきますね。Bさん、先週のレビュー、締切前に前倒しで見てくれてありがとうございました」
ファシリテーターが最初の1つを出すのがコツです。誰かが口火を切れば、感謝は連鎖します。連鎖の途中で沈黙が来ても、慌てて締めないでください。感謝は思い出すのに時間がかかるものです。10秒待つと「あ、そういえば」と二巡目が始まることがよくあります。それでも止まったら、「チーム外の人への感謝でもいいですよ」と範囲を広げると、もうひと山来ます。他部署の人、サポートしてくれた人、家族。感謝の宛先が広がると、チームが独りで戦っていないことにも気づけます。出てこなくなるまで続けて構いませんが、12分で区切ります。褒めるのとは少し違う点にも注意してください。「すごい」と評価するのではなく、「してくれて、嬉しかった」と自分を主語にして伝える。評価は上下を作りますが、感謝は横の関係のまま伝わります。感謝を受けた側は「あの行動はチームにとって良いことだったんだ」と明示的に知ることができ、その行動が続きます。逆に感謝が伝わらないと、良い行動ほど「余計なお世話だったかな」と静かにやめられていくのです。
詳細解説2。熱気球(12〜40分)
熱気球は、チームを気球にたとえる手法です。まず最初の5分で、みんなで大きく熱気球の絵を描きます。上手い下手は一切関係ありません。むしろ下手なほど笑いが起きて場が温まります。描く順番だけ案内すると迷いません。「まず大きな丸(気球)、下に四角(かご)、間を線でつなぐ。バーナーの炎も忘れずに。装飾は自由です」。誰かが旗や顔を描き足し始めたら、その脱線は止めないでください。この5分の落書きが、今日の場の温度を決めます。オンラインボードなら、用意されているテンプレートを貼るだけでもOKです。
絵ができたら、2つの問いで付箋を書きます。「この気球(チーム)をより高く上昇させてくれたものは何か」を気球の上側やバーナーの炎のあたりに。「上昇を妨げたものは何か」を、気球からぶら下がる砂袋として下側に。書く時間8分、共有10分が目安です。
「この2週間、私たちの気球を上まで押し上げてくれたものは何でしょう。追い風でも、燃料でも。逆に、重りになっていた砂袋も書いてみてください」
共有では、上昇要因から先に扱ってください。ここが型②の背骨です。「なぜそれがうまくいったのか」を一段掘り下げると、成功の再現条件が見えてきます。掘り下げの問答は、たとえばこうなります。「『ペア作業が追い風だった』、いいですね。なぜうまくいったんでしょう?」「詰まったとき、すぐ聞けたからですかね」「すぐ聞けたのは、何があったからでしょう?」「時間を決めて、カレンダーに入れてたからだと思います」。この2往復で、「ペア作業が良かった」という感想が、「時間を予約しておけばペア作業は機能する」という再現レシピに変わりました。問題の掘り下げはレッスン6でやりますが、実は成功も同じように掘れるのです。むしろ成功の掘り下げの方が、答える側の心が軽い分、練習台として優れています。妨げた要因(砂袋)は、犯人探しではなく「切り離せる荷物はどれか」という軽いトーンで扱います。砂袋の共有の実況も載せておきます。「『割り込み対応』の砂袋、重そうですね。これ、切り離せる荷物ですか?それとも積んだまま飛ぶ荷物ですか?」「うーん、ゼロにはできないですね」「じゃあ軽くするなら、どのへんから削れそうです?」。誰が悪いという話が一度も出ないまま、対策の話に入れているのがポイントです。メタファの力で、問題の話までポジティブな枠の中で進められるのが、この手法の発明です。
詳細解説3。555(40〜70分)
出てきた要因、とくに「もっと高く飛ぶためのアイデア」を膨らませて絞るのが555(トリプルニッケル)です。もともと大人数向けの手法で、5人程度のグループ・5分・5個のアイデア、が名前の由来です。
進め方は3ラウンド制です。まずグループに分かれ(6人なら3人×2組)、熱気球のボードを見ながら「伸ばしたいこと、そのためのアイデア」を5分間書き広げます。次に、書いた内容はその場に残したまま、メンバーだけが隣のグループへ移動します。移動した先で、前のグループが残したアイデアを読み、5分でさらに膨らませたり、具体化したりします。もう1回入れ替えたら、全体で共有し、いちばん伸ばしたいものをドット投票などで1つ選んで、具体的なアクションにします。仕上げはレッスン4『もう一度、同じふりかえりを 〜ふりかえりのふりかえり〜』と同じ3つの問いです。「具体的には、何をしますか?」「誰が、いつやりますか?」「できたと、どう分かりますか?」。型②のアクションは「伸ばす」方向なので、たとえば「時間予約つきペア作業を、週2回に増やす。カレンダー登録は月曜の朝会で。来週、実施回数を数える」のような形になります。問題を直すアクションより、良いことを増やすアクションの方が、実行の心理的コストは低い。型②のアクションの実行率が高くなりがちなのは、この追い風のおかげです。
「書いたものは置いていってください。次のグループへの手紙だと思って。移った先では、届いた手紙に返事を書き足すイメージです」
ラウンドの回し方を、もう少し実況します。1ラウンド目の開始はこうです。「気球のボードを見ながら、『もっと高く飛ぶために伸ばしたいこと』と『そのためのアイデア』を、5分でどんどん書いてください。質より量です」。5分経ったら、迷いなく切ります。「はい、ペンを置いて。書いたものは残して、Aグループの人はBの席へ、Bの人はAへどうぞ」。2ラウンド目の冒頭では、読む時間を1分だけ明示的に取ってください。「まず1分、前のグループが残してくれたものを黙って読んでください。……では5分で、書き足し・膨らませ・具体化、どれでも歓迎です」。この読む1分を飛ばすと、前のアイデアを無視した書き足しになりがちです。3ラウンド目が終わったら全体で合流し、各ボードの推しアイデアを1グループ30秒で紹介してから投票へ。時間で強制的に区切ること自体がこの手法のエンジンなので、キリが悪くても切る勇気を持ってください。
人のアイデアの上に書き足す構造なので、発想が自然と掛け算になります。5人以下のチームでグループが作れない場合は、全員で1枚のボードに5分×3テーマ(伸ばしたいこと→そのための案→最初の一歩)と時間で区切って書き進める形に変えれば、同じ効果が得られます。
詳細解説4。役立った・邪魔した・仮定した(70〜85分)
締めは、先週の+/Δの兄貴分にあたる手法です。今日のふりかえりの進め方について、「役立ったこと」「邪魔だったこと」、そして「今後はこうしよう(仮定)」の3つを出し合います。+/Δとの違いは、カイゼン案まで作り込むところ。「絵を描くのに時間を使いすぎた(邪魔)」で終わらせず、「次回は先にテンプレートを貼っておく(仮定)」まで落とします。15分あるので、付箋で書いてから共有する丁寧なやり方ができます。進行はこの一言から。「今日のふりかえりの進め方自体を見直します。役立ったこと、邪魔だったこと、そして『次回はこうしよう』という仮定。3分書いて、共有しましょう」。仮定が出にくいときは、邪魔の付箋を指さして「これを消すには、次回どうしておくといいですかね?」と裏返すだけで作れます。作った「仮定」は、次回のふりかえりの冒頭で読み上げてから始めてください。
型②で起きがちなこと
初めて型②をやると、高い確率で出会う場面を先回りしておきます。その1、絵で照れる。「絵、下手なんですけど」の声は歓迎のサインです。「下手なほど正解です」と返して、あなたが最初にぐにゃぐにゃの気球を描いてください。最初の線さえ引かれれば、あとは勝手に賑やかになります。その2、上昇要因が「特にない」で止まる。水準が高すぎます。「大成功じゃなくていいです。先週と同じようにできたこと、それだけで上昇要因です」と敷居を下げてください。無事に1週間回ったこと自体が、誰かの見えない貢献で支えられています。その3、盛り上がりすぎて押す。型②は場が温まる型なので、感謝と気球で時間が溶けがちです。嬉しい誤算ですが、555の3ラウンドは削らないでください。削るなら気球の共有からです。盛り上がりの熱をアイデアに変換するのが後半の仕事で、変換しないまま終わると「楽しかったけど何も決まらなかった」という感想戦になります。
時間・人数が違うときの調整
60分の場合
。感謝8分、熱気球22分、555は2ラウンドに短縮して20分、役立った・邪魔した・仮定した8分。リンク先で時間を60分にすれば自動で組み直されます。4人以下の場合
。555をやめて、熱気球のアイデア出しをそのまま全員で深め、ドット投票とSMARTな目標(型①で学んだもの)に差し替えるのが実戦的です。リモートの場合。熱気球はテンプレート画像を貼り、555はブレイクアウトルームの部屋番号を固定して人だけ移動させると、ボードが残って同じ構造になります。ひとりでやる場合。感謝は「今週ありがたかったこと」を3つ書き出す形に、気球はそのまま描いて、555は5分×3テーマ(伸ばしたいこと→案→最初の一歩)の時間区切り版に。自分の仕事の良い面を意図的に見る練習として、ひとり型②は想像以上に効きます。
ここまでのまとめ
実践に入る前に、ここまでの4ステップで学んだことを、ひとつずつ思い出しておきましょう。
ステップ1:この型が効くチーム
型②は、絵が主役の型です。感謝から始めて場を温め、熱気球・555・役立った邪魔した仮定したと進みます。感謝は、ファシリテーターが最初の1つを出します。
ステップ2:熱気球
みんなで大きく熱気球の絵を描き、より高く上昇させてくれたものと、妨げたものを貼ります。上昇要因から先に扱い、再現できるレシピとして残すのがコツです。
ステップ3:555
書いた内容はその場に残したまま、メンバーだけが隣のグループへ移動します。時間で強制的に区切ること自体が、この手法のエンジンです。
ステップ4:役立った・邪魔した・仮定した
最後にカイゼン案まで作り込みます。絵で照れる、上昇要因が「特にない」で止まる、盛り上がりすぎて押す。この3つが起きがちでした。
よくある疑問
Q. 感謝が全然出てきません。気恥ずかしいようです
最初はそれが普通です。ファシリテーターが2つ3つ続けて出し、小さすぎる感謝(「会議室を取ってくれてありがとう」)で水準を下げてください。それでも出なければ、口頭ではなく付箋に書いて貼る方式に変えると、照れの壁がぐっと下がります。感謝は筋肉と同じで、回を重ねるほど自然に出るようになります。
Q. 「よいところなんてない」と言うメンバーがいます
水準が高すぎるのかもしれません。「大成功」を探すのではなく、「悪くなかったこと」「いつも通りできたこと」から拾ってください。当たり前に回っていることは、当たり前に見えて、誰かの継続的な貢献で支えられています。それを言葉にするのがこの型の仕事です。
Q. 感謝で泣きそうになってしまいました。進行としてまずいですか
まったくまずくありません。感謝が本気で交換される場は、思った以上に胸に来ます。無理に茶化したり急いで次へ進めたりせず、数秒待ってから「いい時間ですね」とだけ言って進めば十分です。ファシリテーターが感情を消す必要はありません。場の感情は、チームの財産です。
Q. 問題が山積みなのに、ポジティブな話ばかりで大丈夫でしょうか
大丈夫です、というより、だからこそです。問題解決は根気のいる活動で、毎回それだけをやると場が疲弊します。よいところを伸ばす回を挟むことがバランスであり、伸ばした先で自然と解消される問題もあります。正面から掘り下げたい問題は、来週の型③でじっくりやります。
今週の実践
リンクからアジェンダを開いてチームに共有し、90分やってみてください。始める前に、前回の+/Δ(またはカイゼンの記録)を確認してから。終わったら「今日いちばん伸ばしたいと決めたこと」を1つ、チームの見える場所に貼りましょう。伸ばすアクションは、直すアクションより忘れられやすいからです。
そして、型②も1回で終わらせないでください。第4週でやった「ふりかえりのふりかえり」の5つの観点(場・時間・問い・参加・アクション)は、どの型にもそのまま使えます。今日の「役立った・邪魔した・仮定した」の結果を観点に振り分けて、2回目の型②をいつかもう一度。特に、感謝が固かったチームは、2回目の感謝で別物のように声が出ます。
レッスン6では逆側に振ります。繰り返し現れる問題の根っこに切り込む、型③問題を解消する、です。型②とは正反対の緊張感がある型なので、今週作った明るい貯金が、そのまま来週の安全余裕になります。
今週の実践課題
アジェンダはふりかえりを作るを開き、目的で「②よいところを伸ばす」の型を選ぶと3分で作れます(印刷・共有リンク対応)。
- 本文のリンクから型②の構成で「ふりかえりを作る」を開き、人数と時間を合わせてチームに共有し、90分で実施する
- 実施前に前回の+/Δ(またはカイゼン結果)を確認してから始める
- 終わったら「今日いちばん伸ばしたいと決めたこと」を1つ、チームの見える場所に貼る
ひとりで進める場合:今週うまくいったことを3つ書き出し、それぞれに「なぜうまくいったのか?」を2回ずつ問いかけてみましょう。成功の再現条件が見えてきます。
「うまくいった部分が出てこない」ときは、問いカタログの「事実(成功と失敗)」「感情(楽しい・嬉しい)」の問いが効きます。 → 問いカタログ
読み終える前に、少しだけ書いてみましょう
自分の過去のふりかえりと照らし合わせて考えると、読んだ内容が身につきます。書いた内容はこの端末に保存され、あとからまとめて読み返せます。すべての問いに一言でも書けば次へ進めます。
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ここから下は、実践したあとに書きます
上の問いに答えたら、いったんここを離れて、実際にやってみてください。やってみたあとに、このページへ戻ってきて続きを書きましょう。
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