最終週。「今日の私、どうだった?」ファシリテーター自身のふりかえり
自分のファシリテーションをふりかえる3つの仕組み(毎回の1行・月次の棚卸し・観客ひとり)を作り、12週間を自分の言葉で棚卸しできる
最終週です。まず、11週間の変化を眺めるところから始めましょう。
先週のふりかえりを思い出してください。進行していたのはBさんでした。あなたはメンバー席で最初の付箋を書き、残り10分の情報提供をして、それ以外は良い参加者に徹しました。終わったあとの2人の+/Δで、Bさんが言いました。「2回目、ちょっと楽しかったです」。11週前のあなたに教えてあげたら、信じないでしょう。
あなたのチームのふりかえりは、もう別物になっています。場の始まりには目的があり、沈黙は怖いものではなくなり、矢印は人ではなく仕組みに向かい、アクションは冒頭1分で生存確認され、マンネリは検知され、+/Δが毎週まわり、先週はBさんが進行しました。スキップの決め方まで決まっています。よくここまで来ました。
では、質問です。この11週間で、いちばん変わった人は誰でしょうか。
チームではありません。あなたです。11週前、答えを言いたくて正の字を数えていたあなたと、いまのあなたは別人です。ところが、です。この11週間、チームのことは毎週ふりかえってきたのに、あなた自身のふりかえりだけが、一度も開かれていません。レッスン9の+/Δはやりました。でもあれは「運営」の点検であって、「あなた」の点検ではありません。最終週は、いちばん後回しにされてきたこの人の話です。
ファシリテーターは、構造的に自分を後回しにする
なぜ後回しになったのでしょう。あなたが怠けたからではありません。役割の構造がそうさせるのです。ファシリテーターは、場の全員をケアする役です。誰の手が止まっているか、誰が言いたそうにしているか。視線はつねに外を向いています。自分に向ける枠は、アジェンダのどこにもありません。
そして、この構造には古典的な失敗パターンが待っています。「私、ふりかえり頑張るぞ」から始まり、「あれもやって、これもやって。大変だなあ」になり、疲れがたまり、ある日あなたが休むと会が開かれない。レッスン10『「あなたが休むと、開かれない」。ファシリテーターの移譲』の冒頭で見た光景の裏側では、たいていファシリテーターが静かにすり減っています。移譲は負荷の分散として半分の答えでしたが、残り半分の答えが、自分自身のケアとふりかえりです。
すり減りのサインも知っておいてください。アジェンダの準備が億劫になってきた。ふりかえり当日の朝、少し憂鬱になる。終わったあと、どっと疲れている。どれかに心当たりがあるなら、もう始まっています。対処のひとつは、レッスン11『「今週は飛ばそうか」。スキップ圧力と戦う技術』の縮小運転を自分に使うことです。あなたが疲れている週は、進行の軽い手法を選んでいい。凝ったワークではなく、いつものKPTでいい。ファシリテーターのコンディションは、レッスン2『場を設計する。ふりかえりは始まる前に半分決まっている』で学んだ「場」の一部です。すり減ったあなたが無理に立つ場より、整ったあなたが立つ軽い場の方が、チームのためになります。
とはいえ、すり減りは気づいた時にはだいぶ進んでいるものです。だから仕組みで先回りします。道具は3つ、どれも軽いものです。
仕組み1。毎回の1行
レッスン9の「ひとりの実践」で、こんな宿題を出していました。ふりかえりが終わるたびに、自分の進行の+を1行、Δを1行だけメモする。続けていた人は、ちょうど1か月分たまっている頃です。今週はその回収からいきましょう。見返し方は簡単で、Δに3回以上登場したものを探すだけです。
実況します。あなたが自分のメモを見返している場面です。
10/3のΔ「Dさんの発言、途中で引き取ってしまった」。10/10のΔ「沈黙2秒で口を開いた。待てなかった」。10/17のΔ「また待てなかった。Bさんが話しかけてたのに」。10/24のΔ「時間配分はうまくいった」。
見えました。あなたのΔの常連は「待てない」です。レッスン3『聴く技術。ファシリテーターの主な動詞は「話す」ではない』で学んだはずの技術が、いちばん錆びやすい技術でもあったと分かります。そうしたら、来月のあなたのテーマは「待つ」。次のふりかえりでは、これだけを意識します。全部を直そうとしないでください。アクションは1つ、1%の行動変容から。レッスン6『「意識します」を退治する。実行されるアクションの作り方』でチームに教えた理屈は、あなた自身にもそのまま適用されます。
月に1回の棚卸しは、YWTの形で書くと収まりがいいです。Y(やったこと)はメモの事実そのまま。W(わかったこと)が「Δの常連は待てない、だった」。T(つぎやること)が「心の中で3秒数える」。チームに教えてきた手法は、ぜんぶ自分にも使えます。むしろ、自分で使ってみて初めて分かる手触りがあります。「わかったことって、意外と書きにくいな」と感じたら、それはメンバーが毎週感じていたことです。ひとりのふりかえりは、ファシリテーターとしての共感の練習にもなっています。
このメモには、もうひとつの効能があります。1行の+の蓄積が、数か月後のあなたを支えるのです。ファシリテーターの成長は連続的で、本人がいちばん気づけません。「今日は全員が1回は話した」「初めて介入なしで矢印が仕組みに向いた」。書き残した+だけが、あなたの定点観測になります。レッスン9で「運営の進歩はファシリテーターが定点観測者として拾う」と言いましたが、あなたの進歩の定点観測者は、あなたしかいません。
仕組み2。へこまない構え
ひとりのふりかえりには、チームのふりかえりにはない危険がひとつあります。反省会化です。ひとりだと止める人がいないので、「今日もうまく回せなかった」「自分には向いていないのかも」と、静かな問い詰めが始まりがちです。ふりかえりが反省会と違うことを11週間かけて学んできたのに、自分に対してだけ反省会をやってしまう。よくあることです。
矯正の構えを3つ。
第一に、+から書く。チームのふりかえりで問題より先に良かったことを扱うのと同じ設計を、自分にも使います。Δを先に書き始めると、+を書く気力が残りません。順番だけで防げます。
第二に、1%でいい。100%の解決を自分に課さないこと。「待てない」が見つかったら、「完璧に待てる人になる」ではなく「次の1回、心の中で3秒数える」。それだけです。
第二の補足として、期間の感覚も持っておきましょう。チームの変化に11週間かかったのですから、あなたの「待てない」が1週間で直るはずもありません。3回のふりかえりで1回待てたら、進歩率33%です。悪くない数字だと思いませんか。
第三に、ふりかえり警察はいません。ノートを開く元気がない夜は、シャワーの5分で今日の場を思い返すだけでいい。フレームワークも様式も要りません。何をやっても、それは間違いなくあなたのふりかえりです。へこむためではなく、未来のためにやるのだ、ということだけ忘れずに。
ペアふりかえりの頻度と長さは、月1回30分で十分です。毎週にすると、お互いの負担になって続きません。レッスン7『決めたのに、やらない。フォローアップの仕組み化』の棚卸し、レッスン9のチェックシートと同じで、日々の軽い習慣(1行メモ)と、ときどきの深い時間(30分)の二段構えが、長続きの型です。
仕組み3。観客をひとり
ひとりのふりかえりには、もうひとつ限界があります。自分の当たり前が見えないことです。ひとりで書いていると、「まあ、やるべきことをやっただけだな」と凝り固まっていきます。そこで、誰かひとりに観客になってもらいます。
相手はもう、あなたのそばにいます。レッスン10で進行を渡したBさんです。月に1回、30分だけ、ファシリテーター同士のペアふりかえりを予定に入れましょう。やることは、お互いの1行メモを見せ合って、一言ずつ感想を返すだけです。
あなた「今月のΔ、私は『待てない』でした。Bさんの進行、いつも落ち着いて見えるけど、どうやってるんですか」 Bさん「え、あれは落ち着いてるんじゃなくて、次に何を言うか考えるのに必死で黙ってるだけです(笑)。それより、この+の『全員が1回は話した』って、意識してやってたんですか。私の回、たぶんCさん一回も話してません」 あなた「あ、それは……レッスン4『「特にないです」の正体。意見が出ないときの介入』の頃から数えてるんです。今度やり方を話しますね」
ひとりでは「当たり前」だったものが、相手には技術に見える。相手の「必死で黙ってるだけ」が、あなたには答えに聞こえる。観客の効能はこれです。始める前にひとつだけ、約束を握っておいてください。お互いの良いところを拾い合う場にすること。ダメ出し会にした瞬間、この30分は続かなくなります。
チームの外に観客を求めるのもいい方法です。ふりかえりを実践する人のコミュニティは社外にもあって、そこでは「うちのチームでは」の話を、利害関係なしに聴いてもらえます。あなたの当たり前が、別の現場の人には発見だったりもします。
探求は、ここから先も続く
最後に、ある人の話をさせてください。
その人は、ふりかえりが大嫌いでした。初めて体験したふりかえりは、プロジェクト終了後に3時間、問題とその原因を延々と問い詰められる会で、成果はマネージャーの報告書のスライド1枚。そのためだけの3時間でした。嫌いになるのに十分です。
数年後、その人は別の文脈でふりかえりに再会し、チームが目に見えて変わっていく体験をします。そこから手法を手当たり次第に試すのですが、面白いのはここからです。その人は、ふりかえりをするたびに、ひとりでふりかえりのふりかえりを書きため続けたのです。「この問いを投げたら、こういう反応があった。次はこうしよう」。何年も、ずっと。すると、手法の表面ではなく意味が読めるようになり、かつて90分かかっていたふりかえりの組み立ては10分を切るようになり、やがて自分の型を生み出して、人に教えるまでになりました。本人いわく、自分のものになったと感じたのは、誰かに教えようとした瞬間だったそうです。
ちなみにその人は、探求の初期、1回のふりかえりのために手法選びと準備に60分から90分かけていたそうです。実施が90分、終わったあとの見直しに60分。合計4時間。いまのあなたから見ると重すぎるでしょう。でも、最初は誰でも重いのです。そして軽くなった理由は、才能でも近道でもなく、ふりかえりのふりかえりの蓄積でした。書きためた「この問いにはこの反応」が、そのまま引き出しになっていったのです。
種明かしをすると、これはこのサイトを作っている人の話です。そして気づいてほしいのですが、あなたの「教えるモード」は、実はもう始まっています。レッスン10の前日、Bさんとの30分の準備で「詰まったら、黙って待つのも進行のうちです」と言葉にして渡した、あの瞬間です。自分の中で感覚だったものを、人に渡すために言葉にする。あの30分であなたの沈黙の技術は、たぶん少し深くなりました。教えることが最良の学びになるのは、教えるためには自分の技術をふりかえらざるを得ないからです。移譲と、あなた自身のふりかえりは、こうして裏でつながっています。
ここで言いたいのは、才能の話ではありません。ファシリテーションの技術は、ふりかえりによって上達する、という単純な事実です。あなたが今週から書く1行メモは、その道のいちばん最初のページです。そして移譲の先で、あなたが誰かに教える日が来ます。そのとき、この12週間はあなたのものになります。
12週間の地図
締めくくりに、歩いてきた道を1周だけ眺めましょう。
レッスン1で、答えを出す人の帽子を脱ぎました。レッスン2で、場は始まる前に半分決まると知りました。レッスン3で、聴くことを覚え、レッスン4で沈黙に技術で向き合い、レッスン5で矢印を人から仕組みへ曲げました。レッスン6で実行されるアクションを作り、レッスン7でそれを仕組みで守りました。レッスン8でマンネリを成長のサインと読み替え、レッスン9でふりかえり自体を点検し、レッスン10で帽子を配り、レッスン11で外の圧力から場を守りました。そして今週、最後に残っていたあなた自身に、ふりかえりを返しました。
このコースは、これで終わりです。でも索引としては、これからが本番です。現場で症状が出たら、その週に戻ってきてください。意見が出ない日はレッスン4へ、犯人探しが始まったらレッスン5へ、「飛ばそうか」と言われたらレッスン11へ。12週間は、読み終えるものではなく、引き続けるものです。
最後の実践に「効いている週と手つかずの週を選ぶ」を入れたのは、この索引を自分用に育ててほしいからです。12週のうち、あなたのチームにすでに根づいた週が必ずあります。それがあなたの現在地です。そして手つかずの週が、次の一歩の候補です。全部を運用しているチームなど存在しません。地図は、全部塗るためではなく、現在地を知るためにあります。
ここまでのまとめ
実践に入る前に、ここまでの4ステップで学んだことを、ひとつずつ思い出しておきましょう。
ステップ1:ファシリテーターは、構造的に自分を後回しにする
場のケアをする人ほど、自分のケアが後回しになります。仕組みの1つ目は毎回の1行。Δに3回以上登場したものを探すと、自分のテーマが見つかります。
ステップ2:仕組み2。へこまない構え
+から書くことで、自分へのふりかえりが反省会になるのを防ぎます。そして仕組み3、観客をひとり。月に1回30分、ふりかえりの話をする相手を決めておきます。
ステップ3:探求は、ここから先も続く
12週で終わりではありません。手法カタログ、コミュニティ、書籍。次にどこへ進めるかの道筋を確認しました。
ステップ4:12週間の地図
12週で扱ってきたテーマを、1枚の地図で見返します。読み終えるものではなく、症状が出たら戻ってくる索引として使ってください。
よくある疑問
Q. 自分のダメなところばかり目についてしまいます
+から書く、を機械的に守ってください。それでも出てこない日は、ハードルが高すぎます。「時間どおりに始められた」「ボードを準備しておいた」。その水準で構いません。あなたがチームの小さな+を拾ってきたように、自分の小さな+も拾ってあげてください。自分は、あなたが担当するチームメンバーのひとりです。
Q. ペアふりかえりの相手が、社内に見つかりません
書く相手を未来の自分にする手があります。「自分へのメモ」という手法で、いまの自分から3か月後の自分に宛てて手紙を書くのです。3か月後に開封すると、過去の自分が観客になってくれます。並行して、社外のコミュニティやイベントを覗いてみてください。ふりかえりの話を聞いてくれる人は、思っているよりたくさんいます。
Q. 12週やりましたが、まだ自信がありません
それで正常です。自信は技術より後から来ます。それに、何百回と場数を踏んだ熟練者でも、点検すれば基本のNGが見つかるのは、レッスン9で見たとおりです。自信を先に待たず、次のふりかえりをやってください。うまくいかなかったら、+を1行とΔを1行。それがこのコースで渡した、いちばん小さくて、いちばん長く効く技術です。
Q. チームに「私の+とΔをください」と聞くのが怖いです
怖くて正解です。評価を自分から取りに行くのですから。でも思い出してください。レッスン1の最初の実践は「うまく進められないかもしれないけれど、助けてください」と不安を開示することでした。あなたはもう一度、あれをやるだけです。そしてレッスン5で学んだとおり、場のルールはあなたの振る舞いが実演します。あなたが自分へのΔを笑顔で受け取る姿は、「この場では改善点を口にしていい」という何よりのデモンストレーションです。ファシリテーター自身のふりかえりは、実はチームへの最後の場作りでもあるのです。
Q. このコースの次は、何をすればいいですか
あなたの現場が、ここから先の教科書です。手が止まったら、手法カタログとQ&AとTIPSがいつでもあります。そしていつか、あなたのチームの誰かが「ファシリテーター、やってみたいです」と言ってきたら、この12週間で受け取ったものを、今度はあなたの言葉で渡してあげてください。教えたとき、全部があなたのものになります。
最後の実践
今週の実践は、これまででいちばん軽くて、いちばん長い宿題です。+を1行、Δを1行。次のふりかえりの後から、始めてください。1か月後の棚卸しと、Bさんとの30分を、いまカレンダーに入れる。そして一度だけ、チームに聞いてみてください。「私の進行の+とΔ、1つずつもらえませんか」。11週間分の信頼が、きっと温かい答えを返してくれます。
持ち帰りを3行で。いちばん変わったのはあなたで、いちばんふりかえられていないのもあなた。道具は毎回の1行、へこまない構え、観客ひとり。そしてファシリテーションの技術は、ふりかえりによって上達する。
12週間、おつかれさまでした。あなたのチームの次のふりかえりが、これまでで一番いい60分になりますように。それでは、良いふりかえりを。
今週の実践課題
- ふりかえりの最後に1回だけ、チームに「私の進行について、+とΔを1つずつもらえませんか」とお願いしてみる
- 移譲した相手と、月1回30分の「ファシリテーター同士のペアふりかえり」を予定に入れる
- 自分の12週間をYWTで棚卸しして、「わかったこと」を1枚だけチームに共有する
- コース12週の一覧を見返して、いまチームに一番効いている週と、まだ手つかずの週を1つずつ選ぶ
ひとりで進める場合:ふりかえりが終わるたびに、自分の進行の+を1行、Δを1行だけメモします(レッスン9『「たぶん、うまくいってます」。ふりかえりのふりかえりという点検』から続けている人は、そのままで)。1か月後に見返す予定をカレンダーに入れて、Δに3回以上登場したものを1つ選び、来月のあなたのテーマにしてください。
読み終える前に、少しだけ書いてみましょう
自分の過去のふりかえりと照らし合わせて考えると、読んだ内容が身につきます。書いた内容はこの端末に保存され、あとからまとめて読み返せます。すべての問いに一言でも書けば次へ進めます。
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ここから下は、実践したあとに書きます
上の問いに答えたら、いったんここを離れて、実際にやってみてください。やってみたあとに、このページへ戻ってきて続きを書きましょう。
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